FINAL FANTASY STORY


第1話−2
出立の日
The day of start

 右手にクリーク湖。そしてそこから流れ出すレウラ川に沿って、いくつもの影が駆け抜けて行く。
 総勢20人。たったこれだけの人数の竜騎士団。
 その竜騎士団が、セレスタの街を救うため、大空を急いで飛んでいる。
 ヒュージも強い風を顔に受けながら、竜騎士団としてセレスタに向かっている。
 日は既に西に傾いている。暮れるまでにセレスタは無事でいてくれるのであろうか。


「準備は出来た?」
 魔道士団の部隊長、タニアの大きな声が響く。
 すでにルーファウス広場は魔道士団を始めとして、セレスタへ出撃する部隊でいっぱいだ。
 全員の騎乗するチョコボの鳴き声、伝令を知らせる声やただの雑談なども合わさり、騒々しい。
 そんな中、ついにカルディナの所属する魔道士団の出発が始まった。
 目的は戦うことではなく、負傷者の救助と後方支援ということだったが、それでも戦争には変わりがない。
 初めての戦争だ。生きる死ぬが間近なのである。
 さらにはもっと危険な任務に向かったヒュージのことも心配だ。
 そのおかげで、カルディナの心は深く沈んでいた。
「カルディナ、また何暗くなってるのよ」
 気付かなかったが、隣にはミリスがいた。彼女はカルディナと同期で魔道士団に入り、なにかと気の合う友人だ。
「そ、そう?」
「大方、愛しのヒュージ君のことが気になってしょうがないのでしょ。彼だって竜騎士団に選ばれるくらいのすごい人なんだから、悲観しちゃダメよ」
「うん……」
 ミリスの慰めに、カルディナは心から悪い考えを追い出そうとした。だが、いくら考えまいとしても、妙な不安……、良くない事が起こるのではないかという予感は消えることはなかった。


 すでにヒュージ達はセレスタの目前、セイムベル高原の境にまで到達していた。
 ファルテを出たのが昼頃。それから飛竜を駆ること約3刻、すでに日は地平線に半ば沈み込んでいて、空は赤を通り過ぎ、濃い藍色に染まっていた。
「まもなくセレスタだ。暗くなってきたが高度を下げるぞ」
 ニーベルの声が響く。
 20頭の飛竜の編隊は、見事なまでに揃って下降を始める。
 高度が低くなると、高いときには小さくてよく見えなかった街道の様子が分かってくる。
 荷物を満載した荷台を引くチョコボを叱咤する中年の男、ぐずる子供を励ます母親の姿。一部では既に今日の移動を止め、街道脇で焚き火を始める一団もいた。
「……セレスタの人?」
 ヒュージはそんな眼下の様子を見て呟く。
「戦争が始まるって言うから避難しているんだろう」
 横からウェゲナが口を挟んでくる。
「飛竜だぞ!」
「竜騎士団だ! セレスタを守りに来たんだ!」
「竜騎士団万歳! ラーダ王国万歳!」
 一部の避難民達がこの飛竜の群れに気付いたようだ。歓声を上げて手を振っている。
「あいつらは俺達を信じてくれてるんだ。やりがいがあると思わないか?」
 眼下の彼等を指しながら、ウェゲナは誇りを持って言った。


 その頃、カルディナの所属する魔道士団は一時の休憩を言い渡された。
 街道脇で部隊毎に集まって火を焚き、持ってきている兵糧を使うなり仮眠を取るなり、今後の夜間行軍に備えて休息を取っているところである。
「ミリスもよく寝られるわね……」
 隣で荷物を枕にすやすやと眠っている友人を見て、カルディナは少し呆れた表情で言う。
 かく言う彼女は火の側で毛布を被っている。まだ白羊の月、つまり春の初めである。しかも高地だけあって夜はかなり冷える。
「そういうところはさすがミリスよね」
 同じ部隊のベレッタも賛同してきた。彼女もミリスと同じように草の上に寝そべっていたが、眠る気にはならないようだ。
「カルディナも少しは眠っておきなさい。これから辛いからね」
 焚き火の反対側から、小隊長ドーントレスが静かに言ってきた。
「別にミリスのようにぐっすりと眠る必要はない。体を横にしておくだけでも良い」
「あ、はい」
 そそくさと、カルディナは自分の荷物を枕にして寝る体勢を取る。
「寝ても良いが、もう半刻後には移動を始めるからな」
 ぱちぱちと、火が爆ぜる音が響く。
 赤く燃える火を眺めているうち、カルディナの意識はまどろんでいった。


「ラーダ王国竜騎士団団長ニーベル・オズワルド、以下20名、セレスタに着任します」
「セレスタへの着任を認めます。ご苦労様です」
 無事にセレスタに降り立った彼らが広場に集合すると、セレスタの町長が直々に迎えにやって来た。
 簡潔な儀礼を済ませると、ニーベルは一遍の封書を町長に渡す。
「こちらは国王からの命令書です」
 50代だろうか、髪に白いものの目立ち始めたこの町長は、ニーベルから渡される封書を丁寧に受け取った。
「ありがとうございます。ここではなんですので、ニーベル殿には屋敷までご足労願えますか?」
「分かりました。後ほど、すぐに伺いますので」
 町長はこれもまた丁寧に礼をすると、街の中心にある立派な建物へと去っていく。
「全員、街の西に移動だ。長躯で疲れているだろうから、竜の世話の後、次の命令があるまで休息を取っていてくれ」
「はい」
「ウォーダン、東のはずれにいるはずの国境警備隊と、待機中の部隊に伝令。各部隊長を町長の屋敷に案内してくれ」
「はっ」
「私は先に町長の屋敷へ行っている。何かあったらそこへ。ウェゲナ、私の竜を頼む」
「あいよ」

「命令書は、ニーベル殿を総指揮官に任命するというものです」
 封書の中に書かれていたことを読み終えて、町長は口を開いた。
「任命することは既に言われておりましょう」
「確かに」
「セレスタの街としても、出来うる限りのお手伝いはさせていただきます。ただ、市民がいくらか疎開を始めておりますれば、その事が気がかりで……」
 ここに来る途中の避難民の姿を思い出しながら、ニーベルはその町長の言葉を遮る。
「そのことは心配なさらず。後々部隊の一部を充てて混乱のない様に取り計らいますので」
「忝い」
 その町長はその身を震わせて深く礼をした。
 ニーベルは老人に対しひとつ大きく頷くと、他に集まっている部隊長の方を向く。
「マイトラード側の様子は?」
「斥候の報告によりますと、帝国側の国境、ユイスの村にマイトラード帝国の黄衣騎士団、4大隊ほどが陣を張っているとの事。なお、後続の部隊は確認されておりません」
 若い国境警備隊の隊長が素早く答える。
「黄衣騎士団? 攻城戦の得意な部隊か……。後続がいない?」
「はい。増員の気配もありません」
「本隊が離れているとかはないのか?」
 ニーベルも竜騎士団の団長を務めるほどである。戦略などに関してもある程度は詳しい方だ。基本的な兵法とは違うことに深く考え込んでいる。
「はい。マイトラード帝国の首都フェリクスに続く街道沿いにはいないとのことです」
「北のヴァルハラ荒野は……、考えにくいな。南は肥沃な土地が広がっているとはいえ、逆に平地なせいで敵に見つかってしまうし」
「様子を見ますか?」
 先駆けてセレスタに駐留していた騎兵団の隊長が言う。
「……まあ討って出るわけには行かないからな。それにすぐに攻めてくることもなかろう」
「そうですね」
「とにかく斥候をこまめに出して監視する。こちらは受けて立つしか出来ないのだからな」


「眠いよう〜」
「さっきあんなに寝てたのによく言うわね……」
 少ない月明かりと、松明の光だけが頼りだが、今は行軍中である。
「寝不足は美容に良くないのに〜」
「ミリス、静かにしないか」
 隣で愚痴るミリスを叱ったのはドーントレスだ。
「ほら、叱られた」
 ふてくされるミリスを見て、カルディナは苦笑している。
「ドーントレス隊長、何日ぐらいかかるんですか?」
 ベレッタが大きく呼ぶ。
「普通に歩いてなら10日近くかかるんだ。まあチョコボを使っているんだし、ペースも早いから、4日ぐらいだろ」
「ひぇぇ」
 またミリスの情けない声が聞こえた。


「こんな暗い中をですか?」
「要は相手陣地の動きを見ればいいんだよ。松明の動きとか数とか、そんなもんだ」
 ウェゲナから聞いた事に対し、素朴な疑問を返すヒュージ。
「松明消していたら?」
「ならばレッドパンサーにでも襲われるだけだ」
「はあ……」
 小隊のうち、3人が上空からの監視、残りが避難民の誘導。それを1刻交代で。これがニーベルからの命令である。
 竜騎士団は20人の人間と、それと同数の飛竜によって構成される。5人で小隊を組み、小隊4つで大隊、というよりも全員である。
 飛竜の数が極端に少ないため、増員が出来ないわけだが、それでもチョコボを使った騎兵団とは比べ物にならないほどの機動力を誇り、また世界唯一の空を飛ぶ部隊のため、ラーダ王国の重要な戦力となっている。
「俺とヒュージ、それにカッシェの3人で上に行く。残りは出張ってる騎兵団の中隊長の指示で避難民の誘導。夜中だというのに、だいぶ騒いでいるからな」
「はい」
 さすがに小隊長らしくウェゲナが指示をし、ヒュージ達は早速それを実行に移す。
「ヒュージ、さっさと行くわよ」
 カッシェの声に答え、ヒュージは颯爽と飛竜に飛び乗った。
「とりあえず北から回るぞ」
 ウェゲナの竜が、続いてヒュージ達の竜が夜空に飛び立った。


 東の地平線がうっすらと明るくなっている。右手にクリーク湖、左手に静かな森が延々と広がっている街道にも、動物達の活気が出てきたようだ。
「やっと朝か……」
 カルディアは誰にともなく呟く。
 夜通しのろのろと(実際には歩くよりは早いのだが)進むチョコボの上。単に座っているだけだったが、かなり体は疲れている。
「伝令、伝令!」
 はるか前方からチョコボに乗って走って来る人の姿が見える。
 その人はカルディナの部隊の少し先にいる団長の所で止まった。
「指揮官より。前方集団に追いつき次第、暫時休憩を取れとのこと。2刻後に再び行軍を開始するとの事です」
「魔道士団団長タニア了解。各部隊に伝令を出して」
 配下の人間がさっと散っていく。
 当然ドーントレスの元にも伝令は来るわけで、
「第4小隊隊長ドーントレス了解」
 とのやり取りをしていた。
「やっと休めるのね」
 隣でチョコボを並ばせているミリスが言ってきた。
「そうね」
「おーし、もう少し進めば休めるぞ。みんながんばれよ」
 ドーントレスの声が響いた。
 カルディナ達の向かう先では、すでに先頭部隊だろうか、朝餉の準備とも見える薄い煙が立ち昇っていた。


「おはよう、ヒュージ」
「おはようございます。カッシェさん」
「そろそろ見張りの交代時間よ。早めに食べておきなさい」
「はい」
 カッシェが差し出した熱いコーヒーを受け取って、ヒュージは焚き火の近くに腰を下ろす。
「なんか街が騒々しいな。なんかあったのか」
 違う方向からウェゲナがやって来た。
「たしかにそんな感じがしますね」
 ヒュージ達も街の方を眺める。
 ちなみに今はセレスタの西の、街道脇の森。
 騎兵団と歩兵団は奇襲に備えて街の東に陣を張っている。竜騎士団は飛竜のおかげで場所を取るので西に集まっているのだ。
「お、出てきたぞ」
 ウェゲナの言う通り、町の門からチョコボに乗った人影がやけに慌てて走って来るのが見えた。
「で、伝令、伝令!」
 その伝令はとにかく声を張り上げて近づいて来る。
「竜騎士団第2小隊隊長ウェゲナだ。どうした」
 ウェゲナの元に転がり込むように辿りついた伝令は大きく肩で息をしている。
「はあはあ。ニ、ニーベル竜騎士団団長からです!」
 まわりに少しずつ竜騎士団の面々が集まり出した。
「先ほどマイトラード帝国からの軍使が到着し、本日夜明けを持ってラーダ王国に対し宣戦布告を発表するとのことです! つきまして、竜騎士団にセレスタ中央広場に第二種装備で集合せよとのこと!」
 竜騎士団の全員に動揺が走った。
「ちっ。やりやがったな」
 ウェゲナは小さく舌打ちをし、声を張り上げて呼ばわる。
「全員聞いた通りだ。第二種装備で中央広場に集合。急げ!」
 先ほどののんびりとした様子とは急に変わって、静かだった森は慌しい喧騒に包まれた。

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