第1話−3
出立の日
The day of start
| 「竜騎士団、第1隊集合しました!」 「第2隊、集合しろ」 「第3隊が到着致しました!」 慌しい動きを見せるセレスタの中央広場。すでに輝くライトメイルに身を包んだ竜騎士達が集まっていた。 「第4隊は斥候に出ている。これで全員か」 ニーベルが広場に姿を見せる。 彼は適当な大きさの台にひらりと飛び乗り、全員を見渡す。 「注目!」 台の脇に控えているウォーダン、第3小隊長が大きく声を張り上げる。 「現況を説明する。伝令のあった通り、本日朝2刻を以ってマイトラード帝国がラーダ王国に宣戦を布告した。すでに『黄衣騎士団』4大隊が国境を超えている。現在歩兵団を中心としてセレスタの東3キロ地点で逆茂木等で防衛線を張っている。騎兵団は半分を防衛に、残りを遊撃隊とさせた。我々竜騎士団は……」 ニーベルはここでいったん言葉を切った。 「我々竜騎士団は、相手側に奇襲をかける」 「え?」 ヒュージは1人間抜けな声を出した。幸い小さくしか声が出なかったのと、他でもざわつきが始まったので咎められる事はなかったが。 「なに驚いているんだ」 ウェゲナは別に変わった様子はなく言って来た。 「防衛線張って攻撃ですか? 守りに徹するんじゃなくて?」 「……おまえ、戦法って知ってるか?」 「作戦開始は第4隊帰還の半刻後とする。遊撃隊の騎兵団、第1、2、3隊で第一波、第4隊で第二波攻撃とした第三陣形だ。騎兵団は散開して牽制、隙に中央と左右から一直線状に攻撃。散開した騎兵団と第4隊で二撃目を加える手はずとする」 「各部隊装備は先ほどの伝令の通り、第2軍装。対地攻撃用だ」 ニーベルの後を追い、ウォーダンが続ける。 「マイトラード帝国側は黄衣騎士団3個大隊約1500人。総大将は左府将軍フランシス・トレヴァーンだ」 その時、斥候中の第4隊からの伝令の竜が広場に降り立った。乗っていた若い騎士は飛竜から飛び降りるとすぐにニーベルの元へと向かう。 ヒュージの位置からは聞こえなかったが、急いで報告することだろう。 報告を聞き終えると、ニーベルは何か指示を与えてその騎士を再び飛ばせた。そして竜騎士達の方に向き直り声を張り上げる。 「第4隊の報告だ。黄衣騎士団1500人に、国境警備隊とカルバレス公直轄騎士団を援護に参加させているようだ。全部で2000人に膨れ上がっている。武器は火矢に大砲、破城槌も準備してある」 セレスタは、最近は平和的だったため、地理的にも物流の重要地点であったため市街としての発展が目立ってきた。しかし、元を正せば他国の侵略からラーダ王国の首都ファルテを守るために発展してきた最前線の砦だった。篭城戦を想定したマイトラードの装備は的確である。 「我々はまず初回攻撃で出来るだけ攻城用の武器を破壊することに尽くす。以上。小隊長3人は残ってくれ。解散!」 ヒュージはと言うと、その後自分の相棒である飛竜の元へ行き、最後の装備点検を行っていた。 「熱心ね〜」 寄ってきたのはカッシェだ。 「カッシェさんは準備終わったのですか?」 「そりゃあね。でもまだ出撃まで四半刻もあるわよ」 「はあ」 カッシェはヒュージの隣に立ち、そっと飛竜をなでる。 「そういえばあなたは人を殺したことがある?」 突然の意外な質問にヒュージはびっくりしたが、カッシェは至極当然のように訊いているようだった。 「いえ……。魔物なら何度かありますけど」 「そう。ちょっと気になっただけだから。ヒュージは戦争は初めてだって言うから」 少し不器用だったが、カッシェの言いたいことはなんとなく分かってきた。 「カルディナちゃんだっけ? 魔道士団の。あの子も心配してるんだろうから、気をつけないとね」 カルディナを引き合いに出されて少し照れているヒュージだが、カッシェの優しさは身に染みた。 「すいません。心配して頂いて」 「んじゃ行くぞー」 「はいっ!」 言っていることは確かだが、どうにも投げやりな態度のウェゲナの声と、必要以上に気張ったヒュージ達の声。妙なやり取りだが、ともあれ第2隊は出撃をした。 ヒュージ達第2隊は左翼の受持ちだ。第三陣形とは、竜騎士がよく使う、上空からの奇襲攻撃の型の一種で、敵陣の中央と左右を同時に、その機動力を使って一気に駆け抜ける。そしてその3隊が離脱して上空を反転、敵陣の注意を引いてもう1つの隊が背後からの攻撃となるようにし、中枢を叩くのが基本的な戦法である。 相手軍がわずかならば、その後に波状攻撃である第二陣形、集中攻撃の第四陣形などを織り合わせばすぐに殲滅することですら可能かもしれない。 上空に達すると、既に他の部隊が編隊を組んで旋回していた。各小隊長を先頭に綺麗な三角形を作っている。 そこで第一波の3隊は東に転進。マイトラード帝国の軍に向けて飛び立った。 「しかしついにマイトラードと戦争か〜」 愚痴と共に大きく欠伸。セレスタの北の門の衛視だ。 「困るよなー。俺の親父の家なんて去年新築したばっかだぜ」 もう1人、閉ざされた大門に体を凭せ掛けながら答える衛視。 「あ〜、そりゃ辛いわな。ウチは狭いから新しく建てたいけどね」 「そんなこと言ってる場合かっての。ったく。親父いくら借金したと思ってんだよ」 「しっかり返せよ」 立っているほうの衛視が苦笑しながら言う。 「これで戦争で潰れたりしたら大損さ。まったく全てマイトラードが悪い!」 鼻息荒く憤る。 「攻められる前に追い返せば言い事だってさ。ところでさ、上を見てみろよ」 言われるがまま空を見上げる衛視。 上空には、鳥のようなシルエットが10以上、美しい編隊を組んで飛んでいた。 「ありゃあ飛竜だろ? 竜騎士団の。何やってんだ」 しばらくすると、飛竜は東の方へと飛び去っていった。 「攻撃でもするのか。なら頑張ってもらわないとな」 「まあ、な」 先ほどの怒りは収まったのか、その衛視は門の脇の事務所へと入っていった。 手持ち無沙汰となった残りの1人は、職場を離れるわけには行かず、少しの間その場でふらふらとしていた。 「……ん?」 何か変な音がした。 「なんだ?」 気になって事務所のほうへと顔をのぞかせる。 「今の音、お前か?」 「なんかあったのか?」 中でくつろいでいた衛視が訊き返す。 「いや……。なんか変な音がしたんでね」 「やっとくつろげると思ったんだが。どれどれ」 事務所を出た2人。だが、今度はその変な音がしっかりと聞こえた。 「気のせいじゃないってか。街の外だな」 「んじゃ物見塔か」 ひょいひょいと登っていった彼だが、街の北を眺めたとき、とんでもないものを見た。 「うわわっ! ま、魔物じゃないか! 魔物の群れが襲ってきたぞ!」 下で様子を見ていた衛視もそのことに度肝を抜く。 「なんだって!? ち、ちょっ様子見てろ。応援呼んで来る」 すでに門の外には大量の魔物が集っていた。 「どうする、と言われても、これだけの数だと相手には出来ん」 衛視達の隊長が苦りきった表情で言った。 「誰か軍本部にいってきて、このことを報告してくれ」 若手の衛視がすぐに駆け出した。 「なんとか門を破られないようにしないと。常駐軍が使えないのではどうしようもない。うまく諦めて帰れば良いが」 その自慢の髭を無意識に撫でながら隊長は言う。 「とにかく門の内側にバリケードを作る。……おい、お前何してる」 隊長が注意したのは、集まった衛視達の中の1人。門の側で不審な動きをしていたその男は、注意をされて何を血迷ったのか、門のかんぬきを開けてしまった。 「貴様! 何をする!」 男は、捕まえようと飛びかかってきた衛視2人を、いつのまにか抜いた剣であっさりと斬り倒す。そしてそのまま門を一気に開け放った。 待ち構えていたのは外の魔物達。雪崩のように門の中へと入り込んで来た。 「スパイだ! 捕まえろ!」 「うわあぁぁっ!」 「誰か軍を呼べ!」 「助けてくれっ!」 衛視と言っても、所詮地方警察の一部に過ぎず、本格的な戦闘訓練などしていない。そのような彼らには、魔物はやはり脅威の対象である。大混乱が起きた。 男はこの混乱をどう逃げたのか、すでに見当たらない。 魔物の群れには獰猛なレッドパンサーの姿も見える。既に中には、すでに魔物の毒牙の餌食となった者もいる。 魔物達は、人々の恐慌を嘲るかのように、大きく咆哮すると、次々と人をその毒牙の餌食としていく。 「伝令! 伝令!」 攻撃に立って幾ばくもしないうちに、竜騎士団の元へ1頭の飛竜が駆けつけた。 「竜騎士団全員へ! 事態は急を要するものなり!」 「どうした!」 ニーベルが大声で訊く。 「セレスタの街、北の門より魔物の群れが襲撃! マイトラードの手の者と思われる男が手引きをしていたとの事! 至急帰還せよとのこと!」 「なんだと!?」 竜騎士団に動揺が走る。 「竜騎士団全隊に命令! セレスタへの帰還を命ず!」 ニーベルの檄が飛ぶ。いっせいに飛竜達は、元来たセレスタへと引き返す。 「各部隊、セレスタに着いたら魔物の掃討だ! 騎兵団へ伝令! 防衛線の守備に加われ!」 「はいっ!」 伝令で飛んできた第4隊の騎士を再び遣わす。 「もたもたしていたら混乱時を突かれるぞ!」 ザシュッ。 上空から急降下、地面すれすれを飛び、すれ違いざまに手にしたコルセスカを突き刺す。 突然疾風のように駆け抜けて来たところを反応する間もなく、レッドパンサーの体は吹き飛ばされる。 「よしっ!」 ヒュージはさらに、今まさに逃げ惑う人に襲いかかろうとしている魔物に狙いを定め、飛竜を操り急降下する。 止めようとしてか、突っ込んできた翼を持つ大きな目玉の悪魔、フロータイボールは飛竜にひっぱたかれ、きりもみしながら地面に落ちていった。 「えいやっ!」 人に飛びかかろうとした直前に、ヒュージの槍が閃く。ズバっと、首を斬り飛ばされたドラゴンが、地響きを立てて倒れる。 再びヒュージが上空に戻ると、今度は3つの首を持つヒュドラが襲いかかってきた。 大きさでは断然大きい飛竜は、そのヒュドラの翼に噛み付いた。そのまま振りまわす。 体は人間と同じぐらいの大きさでも、太さがあるヒュドラである。振りまわされて遠心力がかかれば、それだけの体重を支えている翼ですら折れてしまう。 3つの首、それぞれが悲鳴を上げながら地面へと墜落していくのを、少し気を咎めながら見届けると、ヒュージは再び急降下の体勢に入る。 「なかなかの手だな」 近くで戦っていたらしいニーベルが近寄ってきた。 「あ、団長。ありがとうございます」 「まあ、がんばれよ。竜騎士としての名誉をかけてな」 「はい」 「よし……。左前方の広場、10匹ほど群れているやつらを狙うぞ。ついて来い」 ニーベルはそう言うと、すぐに急降下を始めた。ヒュージもそれに続く。 たむろしていた魔物達が2人に気付き、体勢を整えようとする。しかし、急降下でスピードのついている飛竜よりも遅かった。 群れの真ん中を突っ切り、すれ違うときに槍を振るう。 さすが、竜騎士団の団長だけあって、あっという間に6匹仕留めた。ヒュージはなんとか2匹。 残ったのはコカトリスが1匹。ケエエッと叫んで逃げ出した。そこに他の竜騎士の投げた槍が突き刺さった。辺り一面はあっという間に血の海となっている。 上空に戻ったニーベルは、大声で竜騎士達に呼び掛ける。 「マイトラードの軍が来るまで時間がないぞ。急げ!」 見れば、東の地平線にはわずかながらも土煙が舞っていた。 マイトラード帝国軍はすでに目と鼻の先の位置にまで来ているのだ。 |