FINAL FANTASY STORY


第2話−2
嵐の日
Tempestuous day

 目が覚めた時、バードゥは見知らぬ場所に居た。
 眠気を追い払うように頭を振って、ようやく思い出す。
(そうか、カルナス……)
 故郷では感じる事のない柔らかいベッドから身を起こし、なんとはなしに窓にかかるカーテンを開いてみる。
 眩しい朝日に一瞬目を細める。
 窓の外にはもう活気が出てきた町並み、守護神のように聳え立つ塔、さらに遥か遠くには青々とした草に覆われる草原が一望できた。
 平穏な、カルナスの朝。平和な、フォンの朝……。


「そうだ。9時には閲兵式をやって、昼過ぎには塔を越えたい」
 別の場所で。アルカディアが部下相手に指示を出す作業に追われていた。
「分かりました。将軍はどうなさいます」
「まだまだ会議があるみたいでね。しばらくこっちで足止めだ。閲兵式には出るけどね」
 彼の前にひざまずいているのは女性の騎士だ。ユリア・ハーツ。魔法剣士団の副団長を拝命している。彼女も、アルカディアに負けない程の若さでこの地位にいる逸材だ。
「部隊の総指揮は誰が?」
「しばらくとはいっても、いつまでも、じゃない。部隊がアイゼルドにつく頃を見計らって、飛竜を使うさ」
「ではアイゼルド以降の指揮は将軍が。それまでは?」
「ま、君にやってもらうしかないだろう。全体指揮は経験があるだろう」
「はい」
「時期が迫っているんで、行軍は早めにして。まあ、精鋭達だから、余計な心配だろうけどね」
「では、留守部隊は誰に仕切らせましょう」
「一応セイリーが経験あるんだけど、彼女は軍人じゃないからな。ウォーレン准将がいいだろう」
「分かりました。他には」
「今のところないな。装備はもう指示してあるし。じゃあそちらは頼んだよ」


 ガサガサと書斎を探す音が聞こえる。
 セイリーは、いまは動きやすいようにかなり簡単な部屋着を着ている上、自慢のロングヘアーは軽く梳いてバレッタで留めただけである。有名な魔道師のイメージとはだいぶ違うかもしれないが、どんな人間も実際はそんなものである。
「どこいっちゃったのかしら。書斎にしまったのは覚えているのだけれど。
 ねえ、ステラ?」
「はい、奥様」
 ちょっと間を置いて、書斎の扉を開けて現れたのは、16歳程度の少女。この家に住み込みで働いているお手伝いである。フォンの中流階級の家の娘で、行儀見習ということでフォルン家に奉公している。
「ああ、ステラ。ちょっと軽食を用意してくれないかしら? こっちはもう少しかかりそうなのよ。お昼ご飯食べてる時間なさそうだわ」
「分かりました。居間の方に?」
「そうね。お願いね」
 パタンという音を残して扉が閉まる。セイリーは再び探し物を始める。

 少し経つと、セイリーは大きな本棚の奥から、ほこりを被った封筒を引き出していた。
「ふぅ、やっと見つけたわ」
 ほこりを払おうと、軽く封筒を叩くと、予想外に多くの量の埃が舞う。
 けほっ、けほっ……
 咳込みながらセイリーは誰にでもなく愚痴を云う。
「……もう、少しはこの部屋も奥までしっかり掃除しないとね。あと整理も」
 なんとか目立った汚れをはたき落とした後、セイリーは居間へと戻る。
 ステラが用意した、サンドイッチがいくつか、皿に載ってテーブルの上に置かれていた。
 当のステラは別の仕事をしているようで、この場にはいない。
 セイリーは手に持つ封筒をとりあえずソファの上に置き、登城の為の準備をする事にした。当たり前だが、こんな格好では行く事なんて出来ない。
 ちょっと下品かな、などと思いつつ、サンドイッチの1個を頬張って、そのまま寝室に走っていった。


「セイリー・フォルン様、ご登城にあらせられます!」
 カルナス城の宮殿の入口に車を着けたところで、両脇に控える門衛の声が高く響く。
 車から降りた所に1人の青年が待っていた。云わずと知れたセイリーの夫、アルカディアである。
「お待たせ」
「少し遅かったんじゃないか? 心配したよ」
「云われた資料がすぐに見つからなかったのよ。今度、ちゃんと整理しようね」
「う〜ん、整理してる暇なんて無かったからなぁ」
 カルナスでも注目度が高いこの夫婦である。
 今のセイリーは深い藍色のシャツとこれも濃いブラウンのスラックスに、魔法学院の上級魔道師を示す黒のローブを纏っている。髪は綺麗に梳かしてあり、後頭部で緑の宝石のついたバレッタで留めてある。
 アルカディアは魔法剣士団の団長のいでたちである、ミスリル製の軽装鎧を纏い、腰には宝剣エクスカリバーが下げられている。宝剣を魔法剣士常用のルーンブレイドに変えれば立派な実戦装備である。――無論、宝剣もルーンブレイドより劣っているという事など有り得ないが、洞察力のある者には何かあったのではないかとすぐに気付く事が出来た。
「シゼル導師から連絡は?」
「今何時?」
「午後の1時近くだよ」
「じゃあもうすぐよ。1時に到着予定って話だから」
「そうか」
「今夜は何時くらいまでかかるかしら」
「う〜ん、始まりが3時だけど、遅くなるかもね」
「あら、じゃあステラに云っておいた方がいいかしら」
 すぐにセイリーはとってかえし、今さっき乗ってきた馬車の御者へ言付を頼む。御者にいくばくかの駄賃を与えると、馬車は再びカラカラという音と共に動き出した。
 しっかりと封筒は放さずに、アルカディアの元へ戻ってきたセイリー。当のアルカディアはというと、空を見上げていた。
「雨が降りそうだ……」
 昼前まではあんなにも晴れていたのに。つられて空を見上げたセイリーの顔に、冷たいものが落ちてきた。


「魔法学院教師、シゲル・エン様!」
 雨が降り注ぐカルナスの城に、再び声が響く。
「来たようね」
「ああ」
 宮殿のホールで、セイリーとアルカディアが待っていた。バードゥと並んで会議で重要な、シゲル教師の登場である。
 やがて少し緊張気味にやって来たシゲル教師を解すためだろう、2人は笑顔で彼を出迎えた。
「これはシゲル導師、わざわざご足労頂き、真に申し訳ございません」
 アルカディアが社交辞令を兼ねて切り出す。
「こ、これはアルカディア将軍、それにセイリー導師まで。わたくしのような身分賎しい者にお出迎えとは痛み入ります。わたくしは魔法学院にて一教師をさせて頂いておりますシゲル・エンでございます。以後、お見知りおきを」
「アルカディア・フォルンです。学院時代から、シゲル教師のお話は伺っております」
「セイリー・フォルンです。私も学院の時からシゲル教師のお話は伺っています。本日はよろしくお願い致します」
 この若い2人と、もうすぐ中年の域のシゲル教師とでは、普通とはなかなか立場が違うため、傍目からは変わった様にも見えたかもしれない。
 なんにせよ、いろいろと事態は逼迫しているため、こんなことに時間を費やすわけにもいかない。
「セイリー、導師を控え室に案内して」
「ええ」
「導師、早々に申し訳ないが、すこし用があるためこの場で失礼します」
「いやいや、お構いなく」
 そう云い残して、彼はその場を後にした。


 することと云うのは、部隊の定時連絡である。
 別段彼がやらなくてはならない事ではないのだが、セイリーを迎える前に魔道師同盟の方からあまり良くない話を聞いたため、彼が直接することにしたのだ。
「ユリア聞こえるか?」
 数ある会議室のひとつに設けられた遠征対策本部にて、アルカディアは機械に向かって声を掛けていた。
≪……はい、聞こえます≫
 彼の声に答えるように、その機械から若い女性の声がする。
 コミュニケーション・クリスタル。マテリアと呼ばれる魔石を使い、遠隔地での通話を可能にしている機械である。四角い箱にすり鉢状の穴の開いた本体、それと、コップ程度の大きさ、形のものに本体から紐のようなものが繋がっている、奇妙な形をした物だ。
 魔石そのものの希少価値が非常に高く、なんとか開発した魔道師同盟の各都市支部に連絡用に置いてある他、カルナス共和国軍が何台か使用している程度だ。
「今どこにいる」
≪……十二星座の塔からはだいぶ過ぎましたが、最後尾はまだ通過したばかりだと思います≫
「そうか。ラーダの状況が掴めなくなっている。いまもだいぶ急いでいるようだが、あんまり余裕が無いようだ」
≪……分かりました。4日後にはアイゼルドに入れるようにします≫
「ああ」
 交信を終え、軽く一息つく。
「伝令班の者はいるか? 評議長に報告を。あと、北アイゼルドの魔道師同盟支部にコミュニケーション・クリスタルをつなげてくれ」
「はい」
 機械の側に座っていた技師が、クリスタルをいじり始めた。
「伝令4班です。御用でしょうか」
 1人の騎士が彼の元に来て、敬礼をする。
「評議長に、定時報告を。あと――」
「アイゼルドに繋がりました」
「ああ、ありがとう。ちょっと待ってくれ。で――」
「……様子がおかしいですよ」
「何?」
 伝令の騎士を片手でその場で制止するように指示し、すぐに技師の云う通り、コミュニケーション・クリスタルから聞こえる声に耳を傾ける。


 敵…………トラードの………襲って来…
 やつ…はコ………脈を超…て来た……


「なにかの障害のせいか、うまく繋がりません」
「黙って」


 市中は近…兵…………いるが………い、多…ぎだ。
 カルナ……らの援軍…ま……か……すけてく…全…つし……う
 ……うわ……なん…だ…白衣騎士だ
 助…てくれ…うわぁ……


「しょ、将軍!」
 部屋にいる騎士達が、聞こえてきた声に愕然としている。
「北アイゼルドがか……。フォンはもう……」
 アルカディアが毅然と顔をあげ、声を張り上げる。
「伝令、大急ぎで評議長他、軍の各将軍に報告、緊急で軍議だ! 遠征部隊に連絡を!」
「は、はいっ!」
 ばたばたと、にわかに会議室は慌しくなった。
「遠征部隊のユリア准将がお出になりました」
 わたされた送信機を掴み、きりだす。
「ユリアか。緊急事態だ」


「なんだか騒がしくなってきたな」
 カルナス城の客室で、する事なく時を過ごしていた彼は、宮殿内の雰囲気が変わったことに気付いた。
 静かに窓を濡らす雨を横目で見て、1人つぶやく。
「……いやな予感がするな」
 だいぶ、空が暗くなってきた。まだ、2時にもならないというのに。

第2話−1第2話−3


FFS目次へ

トップへ