FINAL FANTASY STORY


第2話−3
嵐の日
Tempestuous day

 会議室には、バードゥは元より、メドック評議長をはじめとするカルナスの評議員、大臣などの文官、そして聖騎士団長などの武官が揃っていた。
ひとまずラーダへの対応が決まり、後は結果の様子見であるため、ウィンタストに関する会議は予定通り開かれることになったのだ。
「こちらではほとんどの方が魔法については精通していると思われますが、今一度確認のために説明させて頂きます。
 我々は大気中に満ちる魔力を、構成と呼ばれる、いわば魔法の設計図のような物を介して利用し発動させます。構成に関しましては、有名なるファイア、ブリザド、サンダーを基本と致します、広くに知られた構成の例もあれば、各人によって意匠を凝らした構成まで、様々なものがございます。構成を編むためには呪文が必要とはしませんが、発動に関しては言葉を媒体にして魔法が発動するため、俗に音声魔術と呼ばれることがあります。
 魔力ですが、これについてはまだ詳しい究明がなされておりません。現在、各研究機関で注目の研究対象とされております。有力な説と致しましては、大気中に漂う一種のエネルギーと云われてもおりますが、何分、まだ十分な確証が無いことなので。
 ざっと基本的なことですが、よろしいでしょうか」
 アルカディアが最初の発言を終える。居並ぶ人々はただ軽く頷く程度。
 それを質問の無い意と解釈し、次へと話を進める。
「ユグドラシルと世界創造、これらの俗に云われる神話の時代、最初に人に魔法を伝えたのは幻獣ユミールとされております。ユミールは人と酷似した姿を持ち、我々の祖先との混血によって人は魔法を得たとされます。ユミールは我々と同じく言葉を紡いで魔法を駆使したと伝えられ、この能力が遺伝したと思われます。遺伝によって魔法が使えるかが決まりますので、魔道師の血が流れていない人には、いくら訓練しても魔法を使うことが出来ない理由にもなっています。
 これを念頭に置き、王立魔法学園にて講師をしております、シゲル・エン導師にお話を伺います」
 アルカディアが一礼をして席に座ると、入れ替わって立つシゲル。会議室にいる人々をぐるりと見回し、軽く咳払いをして話し始める。
「アルカディア殿のご紹介にありました、シゲル・エンです。よろしくお願いします。
 早速ですが、魔物の存在についてお話させて頂きます。
 まず魔物について。魔物は基本的に2つに大別出来ます。魔獣と怪獣です。
 魔獣とは、我々と同様に神話の時代に幻獣との混血が行われた種族の内、恒常的に人などに危害を加えるものを指します。気性が荒い事で知られるサーペント族や、ベヒーモスなどが挙げられます。
 怪獣は魔獣と違い、幻獣との混血はなく、普通の動物のうち、凶暴なものが当てはまります。パンサーや、エイビスなどです。魔法を使う魔獣と比べると、その力は貧弱です。
 次に魔力についてですが、アルカディア氏の説明通り、本格的な研究が始まったばかりですので、多く説明することが出来ません。ですが、大量に魔力を利用すると身体に変調をきたし、最悪の場合、死に至るというルーン病が存在していますので、人体に有害なものかもしれない、との見解が出ております。幻獣の側では魔力が強まるとも云われており、因果が調査されていますが、何分幻獣は姿をあらわすことがほとんど無く、調査どころではないのが実情です」
 云い終えると、さっとアルカディアが立つ。
「幻獣について説明させて頂きます。
 神話時代、ユグドラシルが世界を支えるために創り出されたのが最初とされています。その後、彼等とは別に生き物の側にいるために創り出されもしました。系統的にはその二つに分けられます。
 幻獣の基本ですが、実体化されている事が多いので、その際の行動には物理的な制約が伴われますが、基本的には精神体です。幻獣の個体差のためか、行使する魔法にはそれぞれ固有な発動方法をしますが、規模については我々とは比較にならないほど強力です。また、魔獣の血が濃い魔物を操ることも可能といわれています。現に約500年前、ミレニアム(千年帝国)崩壊に際して、大量の魔物を従えた幻獣との戦いが記録されています。
 さて、北方ウィンタストでの事態ですが、幻獣フェンリルの住まう地として有名ではありますが、私としましては、幻獣が直接的に関係する事ではないと考えております。500年前から幻獣はまったく姿を消してしまったため、今になって幻獣が直接大量の魔物を操って人に危害を加えるという事はまず有り得ないでしょう。ですが、大きく魔物が騒ぐとなりますと、各地に残っている幻獣の偶に起こる動きによる余波のためにもたらされた可能性があります。
 そこで対策ですが、幻獣に動きが出るほどの事が起きている可能性があるため、警戒を強めるべきだと思います。明確な予知はさすがに不可能なので、ある程度の自由の利く対策を準備しておくべきかと存じます」
「分かりました。評議会の方で、詳しい対応を協議する事になります」
 メドックが対応する。そこで、アルカディアが再び発言をする。
「なお、今後幻獣の事はセイリー・フォルンがおりますので、彼女に疑問等をお願い致します。私はラーダ王国の件で、出自せねばならぬ身ゆえ、これにてご免仕ります」
「お役目ご苦労。ラーダの件に関しては、先程話された事が基本だ。それ以上の情勢の変化は、国境での状況次第となる故、我々では迅速な対応はし難い。これより国境に赴くアルカディア殿には不安なるものも有りようが、よろしく頼みまするぞ」
 アルカディアは何も云わず、ただ敬礼だけをして部屋を退室して行く。途中、心配そうな表情を向けてきたセイリーには、軽く頷いてやる。
「ラーダ王国の情勢も、このカルナスの民の安全に多いに関わる事とはいえ、幻獣への対策も民の安全と密接に関わっておる。セイリー殿には悪いが、ここは……」
「分かっています。彼もカルナスのために戦地へ赴く身。私も彼の心配事を減らすためにも力を尽くすつもりです」
 メドックをはじめとした、会議に並ぶ人々の同情の眼差しに対し、セイリーは毅然と振舞う。
「では。
 まずは調査団の派遣に関して考えてみることにしよう――」


 アルカディアは尖塔を登っていた。宮殿のこの塔の上には、緊急用の飛竜が数頭飼われているからだ。今度は聖剣エクスカリバーと、ルーンブレイドの2つを携えて、完全な戦時武装である。
 事態は逼迫しているため、悠長に馬なりチョコボなりで街道を通っている暇はない。馬で戦闘の行われている国境のアイゼルトまで、普通の旅なら7日ほど。夜も注いで急行して、せめて3日といったところか。急いで通信で、それこそリアルタイムで入って来たアイゼルトの戦闘に3日もかけて向かっていたのではどうしようもない。
 飛竜なら、なんとか1日、風が良ければ半日で済む。アイゼルト回りのカルナス軍には、魔法剣士団の副将ユリアが行っている。彼女はアルカディアの片腕として優秀な働きをしているだけに、彼が向かい、陣頭指揮を取るまでは軍を保つ事が出来よう。
 途中、近衛兵が守護している場所があるが、アルカディアが向かう事は既に承知の事である。敬礼と、武運を願う決り文句を云うとすんなり通してくれた。
 塔の頂上に出ると、昼過ぎからの雨が、いつしか雷雨となってアルカディアの顔に叩きつけられる。
 吉兆とは思えないな、などと考えつつ、飛竜の飼育係を探そうとした。
 ふと、塔の外壁に身を乗り出している兵士がいた。飼育係も同じく、ある方向を指して騒いでいる。
「どうした?」
 アルカディアが声を掛けると、当の兵士が慌てた声を出す。
「あっ、アルカディア将軍、大変です!」
「何が大変なんだ。しっかり説明してくれないと」
「と、とにかくあれを見てくだせぇ」
 飼育係に指されるまま、その方向を見やる。
 何か多くの動く物が、フォンの市街を駈け抜けているのが分かった。
「あ、あれは一体なんなんでしょうか」
 震える声で問う兵士。
「おいおい……」
 アルカディアも、ようやく声を絞り出す。
 それは無数の魔物の姿に相違なかった。


「敵襲ーっ!」
「敵襲! 魔物の大群がっ!」

 にわかに騒がしくなった会議室では、評議長メドックを中心に、武官の多くが大慌てで対策を講じていた。
「市街の魔物の退治を最優先に当たれっ!」
「聖騎士団は宮殿を固めるよう指示を出せっ!」
「魔道士団を中心に、北からの敵に当たっておりますっ!」
「騎兵団は出られるか!?」
 さきほど出ていったアルカディアは無事だろうか。セイリーの頭にそんな考えがよぎる。彼がいたらどんなに心強い事か。
 だっ、と駆け込んできたのは、文字通り満身創痍の魔道士。
「報告します、魔物の群れは何分数が多く、劣勢となっております」
「魔道大国の魔道士が出て劣勢だと!?」
 普段は取り乱したりなどしないメドックが、珍しく声を張り上げている。
「ですが、魔物達は非常に計画的な行動をとっております。誰か、知恵のある者が率いているのではないかとの事です」
 傷の痛みでうめくような魔道士を、セイリーが近寄り介抱する。
「分かった。しかし宮殿よりも市街の安全を優先する事にしよう。聖騎士団は!?」
 ここまで辿りつくのがやっとであった使者に代わって、聖騎士団長ネリクスが答える。
「宮殿の正門に500、東大門、風の門、魔道士の門ともに200ずつ。またここの守護に200配置させています。さらに現在他の騎士団を使い増員をさせているところです。ですが、この場はそれほど強固でないため、出来れば評議長殿には避難することを考えて頂けないでしょうか」
「仕方がない、文官、評議員を避難できるように計らってくれ。市民の方は?」
「クラジミール、オルロット、コポールなど南の都市へ向けて誘導しております。南の方には魔物は全くいないとのことなので」
「よし、ひとまずこの場を離れることとしよう。バードゥ殿、ここは危険ですので」
「分かりました」
 バードゥは素直に立ち上がった。すぐに数名の聖騎士団が会議室内に入って来て、要人を中心に案内を始めようとする。
 だが次の瞬間、どおん、と大きな揺れが彼等を襲った。
「く、何事だっ」
 ネリクスが叫ぶ。間もなく、宮殿の中に剣戟の響きが鳴り出してきた。
「申し上げますっ!」
 今度は白色に輝く鎧を纏った騎士が現れた。だいぶ慌てているようで、本来なら敬礼などをするべきところをすっかり忘れている。しかし、そんな状態でないためか、誰1人とがめる者はいない。
「正門が破られました。城内に魔物が侵入して――うわぁっ」
 騎士が前触れもなく吹き飛んで、視界から消える。直後、素早く動く影が横切る。
「ここも直に落ちる。時間がない、行くぞ!」
 強行突破。もうそれしか道はないようだ。
 聖騎士団とネリクスを先鋒として、決死の突破が始まった。

第2話−2第2話−4


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