FINAL FANTASY STORY


第3話−2
国境の攻防
Battle of border

「伏せてあった黄衣騎士団2600人、到着しました!」
「カルバレス騎士団500は南に移動を開始、国境警備隊と共に国境封鎖の準備に出ています!」
「第2大隊点呼良し。出動準備完了!」
「第1大隊、展開完了しました」
 セレスタの臨める丘、昨日に戦闘が行われた平原と同じ場所で、再びマイトラード軍は陣を敷いていた。
 既に昨夜の内に出した指示により、竜騎士の偵察に見つからないようにだいぶ遠くに伏せていた兵を呼び戻し、黄色く輝く4000人の騎士団全軍が集結している。
 カルバレス公は黄衣騎士団の集結を待って、自らの直轄騎士団を指揮して国境まで後退し、地元の国境警備隊と協同で国境封鎖と補給路確保にあたっている。
 今日の戦場となる平原は、昨日の戦いの後で残った死者、負傷者はすべて片付けられ、背の低い草に覆われた静かな草原に戻っている。だが、その姿もすぐに再び血にまみれることになるだろう。
「第6大隊は左翼、第7大隊は右翼に展開を指示。第8大隊は本隊すぐ後ろに待機し、出動体制を。第1、第2は昨日戦ったので、今は後詰に下がらせる」
 フランシスの指示に従い、4000人の騎士団は素早く移動してその形を変えていく。
「破城槌の準備をしておけ。弓も用意しろ」
 対するセレスタ。要塞都市を示す城壁の前に防塁を置き、マイトラード軍との決戦を前に堅い守りを敷いている。
 兵は近隣の国境警備隊やら義勇兵やらで3500人ほどまでは膨らんでいる。陣地の一番後方に、装備も年齢もばらばらな集団がいるので、すぐに分かる。さすがに勇猛で知られるマイトラードの騎士団相手では、決死の覚悟も弱々しく見えてしまうが、首都陥落の報にもめげず、自らの街を守ろうとする姿は頼もしくもある。
 そして、城壁の上では、計16頭の飛竜がいつでも飛び立てる状態で待機していた。
 マイトラード軍、セレスタ軍、どちらも準備を終え、動き始めるきっかけを待っているかのようだった。
「第6大隊展開完了!」
「第7大隊準備良し! いつでも攻撃可能です」
 伝令の報告を受け、フランシスは再び前に向き直る。
 右手に持つ采配が、何故だか重く感じられた。ラーダ側から仕掛けてくることはありえない。その采配を振るうことで、いくつの命が失われることか。浮かんでは消える、様々な思いを振り払い、彼はその采配をゆっくりと掲げる。
 草原にこれまでにない緊張が走ることが、肌にまざまざと感じられる。
「黄衣騎士団……、進め!」
 張り上げた声と共に、采配が振り下ろされる。
 その合図と共に、展開している騎士団が動き出す。呼応して、セレスタ軍も動き出した。
 ラーダ戦役、第2の戦いが始まった。


 血飛沫をあげたラーダ兵が大きくのけぞってチョコボから転げ落ちる。
 鮮血に塗れた剣を払い、マイトラード兵は次なる敵の元へと馬を巡らせる。
 あたりにはいたるところに血溜まりができ、上手く馬を走らせなければ脚を捕られてしまう。
 倒れたが最後、その上に容赦なく、敵か味方か分からない馬の蹄やチョコボの鉤爪が襲う。
 小1刻程だろう戦いは、既に先程までの爽やかな草原の雰囲気を大きく変えている。
 喚声、罵声、悲鳴。
 そして再び大地へと倒れこむ兵士の姿。
 見上げる上空には、不気味ともいえる影だけの竜が何頭も舞う。

「第330戦闘中隊より伝令! 敵前線を突破したとのことです!」
「他の部隊を集め、穴を拡大するように指示を出せ」
「右翼第7大隊より、竜騎士団の集中攻撃により、押され気味とのことです!」
「第5大隊の一部を右翼の援護に回せ。また、少し後退させて弓兵を使うように」
 戦場とは違い、その血生臭い空気は本陣には届いてはいなかったが、多くの伝令が絶えず出入りし、非常に騒がしい事には変わりがない。
「アレックス、第1、第2大隊に出動準備をしておけ。じきに出るぞ」
「はっ」
 アレックスこと、アレクサンドル准将はフランシスの右腕といわれる人物だ。古くはフランシスがカルバレス騎士団に所属していた頃からの付き合いで、気が置けない仲である。
 すぐに伝令が飛んだ。昨日の戦闘の疲れも見せず、本陣でてぐすねひいて待ち構えていた騎士達は、出陣の報に湧き立っている。
「思いのほか、苦戦しそうにないな」
 戦場を眺めながら、准将に向かってぽつりと漏らす。
「そうですね。もう少し、必死になってくるのかと思っていたのですが」
 アレクサンドルも本音を云う。
「お、一騎、竜騎士を撃ち落した様子です。が、なかなか、倒せないものですな」
「カルナスの魔法剣士団と比べれば、さほど強敵とは云えないだろうさ。だが、弩は同士討ちの危険が高いし、弓では威力がな……」
「いっそ、魔道士でも使ってみたいものです。さて、準備が出来たようです」
「ああ」
 振り向けば、伝令が待ち構えている。
「第1、第2大隊共に出動準備完了です!」
「ご苦労」
「どうなさいますおつもりで?」
 アレクサンドルの言葉に、フランシスは別段変わった様子もなく答える。
「俺は第1大隊を率いて防衛線突破の最後の仕上げだ。アレックスは第2大隊を率いて右翼の援護に出てくれるか」
「分かりました」
「竜騎士に無理して相手をする必要はない。被害を最小限にする事に気を使え。どうせ、防衛線の援護に回るだろうから、その後に陣を組み直して防衛線の突破を」
 的確に指示を出すフランシス。
「第5大隊に伝令を出し、第1大隊と共に防衛線突破に当たらせるように。突撃後に第3大隊を後ろに退かせろ」
「心得ています」
「馬引け!」
「はっ!」
 フランシスが自分の小手を着けながら云う。
 すぐに愛馬が手綱を引かれながらやってきた。それに、またがり、整然と並んでいる騎士達に目を向ける。
「剣!」
「ここに!」
 愛剣レーヴァテインを手に、声を張り上げる。
「敵の防衛線は崩れたっている! 止めを刺し、セレスタを落とすぞ!」


 実際のところ、防衛線が崩れたってからはあっという間だった。
 セレスタ軍の、崩れた部分を立て直そうという必死の努力も、前線の混乱の中で思うように捗らず、さらにはフランシス将軍が直々に率いた黄衣騎士団の突撃によって完全に崩されたのである。
 一度崩れたが最後、その防衛線の穴はすぐに広がり、また別の穴が開くことを誘発した。
 ラーダの誇る竜騎士団がいるものの、正規軍は元々到着していない事があいまって、他にほんの小数を数えるだけである。
 完全に統率された騎士団に、徴兵が中心のセレスタ軍が抗す術もあるはずはなく、結局最後の抵抗を見せる間もなく、兵はセレスタを越えて散り散りに逃げ去っていった。
 正規軍はまだましな方で、騎兵団と竜騎士団は散り散りになることはなかったが、セレスタを一旦放棄し、街道をセレスタの向かって進軍中の遠征軍と合流して最後の蜂起を計る様子である。
 対するマイトラード側はゆったりしたものである。
 結局はセレスタ軍が持ち堪えることが出来ず、黄衣騎士団本隊が突撃したと云っても、ほんの少し戦っただけで、セレスタ側が勝手に崩れたっていっただけである。
 損害は竜騎士団との戦闘があった右翼側では多かったが、それほど深刻なものでもなく、他に到ってはほとんどいないようなものである。
 そして誰も守る者がいなくなったセレスタの市街に悠々と入っていったのだ。
 こうして、朝に始まった戦いは、昼を待つまでもなく終わたのであった。


 文明国とは良いもので、発展途上の国のように戦争で敵国を平らげたら略奪し放題、ということはマイトラードにはありえない。各小隊長の目も光っているし、略奪行為が見つかれば、軍法会議に送られ、良くて一生を辺境の強制収容所で過ごすはめになる。
 また、長年の歴史の中で、都市を占領し、占領され、また奪い返すという行為が繰り返されてきたが、都市の繁栄がなければ成り立たないという考え方から、占領した以上は都市の管理の責任を持つという慣習が出来ている。
 フランシス率いるマイトラード軍も、セレスタの管理が任されている。今回の戦いに巻き込まれた市民を対象とした薬品、食糧の支給、商店再開の許可等、豊富にある軍資金――とはいえ、メトークスでの反乱が起こるほどのマイトラード国民の税金の賜物ではあるが――を使って、セレスタの交易を再開させる手筈を整えている。
 セレスタに入って以来、そうした細々とした雑務に追われているフランシスに、やっと時間が空いて休みが取れたのは、白洋の月7日に日付が変わる頃だった。
 本部の置かれている、セレスタの中心街にあるこの都市最大の宿の一室で、2日に渡る仕事に疲れたフランシスは、すぐに自分用に用意させた部屋のベッドに倒れ込んだ。
(明日いっぱい、セレスタの整備に掛かりきりか……。閲兵も一度しなければならんだろうし、ああ、市長が面会を求めていたな……。
 ラーダ軍がどう動くやらまだ定まっていないから、こっちもゆっくり休息を取っていられるのだが、いくらなんでももう動き出す頃合だろうし。10日に向こうと合同でラーダ軍に当たる予定だから、遅くとも9日早朝までに西に兵を進ませなければならん。明日中に、か。遠隔地との連動は面倒だからなあ)
 いろいろと考えを巡らせているうちに、久し振りのベッドの感触か、うとうとしてきた。
(うう、上官ってのはなにかと面倒だなあ……。結局は一番面倒な雑用係というか……)
 ――ふいに、はっと目が覚めた。
 一昨日の夜と同じ感覚を、彼は感じていた。
 一瞬、部屋の外で護衛をしている騎士を呼ぼうかと思ったが、止めた。
 すっとベッドから脱け出し、武器を手に取る。室内では不便な大剣ではなく、扱いやすい護身用の短剣ではあるが、まあ十分だろう。
 部屋は開け放たれて窓から注ぐ月明かりだけであったが、明かりを灯そうとは思わなかった。この場合、光は暗闇を濃くするだけだ。
 いつでも応じられるように臨戦体勢を取りながら、部屋の中央に陣取り、敵の気配を探る。
 待つこと数分。
「…………!」
 フランシスの短剣が閃き、何者かのぴぃー、という小さい悲鳴が上がった。
「閣下! どうなさいました!」
 すぐにその物音を聞きつけ、衛兵が扉の外で騒ぎ立てる。
 フランシスは敵の悲鳴が途切れたところで、戸の鍵を開け、衛兵を招き入れる。
「あっ! 閣下、お怪我は?」
 騎士達の持つ灯りに照らされ、大きな目玉を一突きにされたフロータイボールの姿が浮かび上がる。
「部屋に灯を点し、外にも警備をまわせ。どうせ、他にはいないだろうがな」
 すぐに指示を出し、衛兵を走らせた。
「将軍、どうなされました」
 騒ぎを聞きつけて、アレクサンドル准将が警備を担当していた第2大隊長を伴ってやって来た。
「ああ、一昨日と同じだ。さて、こう魔物がうろつくという事は、どういうことだろうね」
「も、申し訳ございません。私どもの警備の不備が――」
「警備の不備とは思えんよ。しかし、ジャイアントバットのフロータイボールか。夜行性ではあるが、こうも都市部にまで出るとはな」
 大隊長のハンセルが青い顔で謝るのを、フランシスがやんわりと受け流す。
「そうですな。ハンセル隊長、将軍用の別室を用意しておくように」
「は、はいっ!」
 アレクサンドルに促され、その場を離れるハンセル。
「なかなか、解せませんな」
「そうだろう。わざわざ私を狙っているように、ね」
「4日の戦いの時に、セレスタ市街に魔物の群れが侵入したのと関係があるのでしょうか」
「あの伝令の報告か。あれもなかなか、理解し難いことでもあるが……」
「明日にでも、調べておきましょう」
「ああ……」

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