FINAL FANTASY STORY


第3話−4
国境の攻防
Battle of border

 しばらくの間、誰もが動けずにいた。
 黄衣騎士団の騎士達は、相手の方がはるかに上手だと一瞬で気付いている。おかげで下手に動けない。
 彼等の前に現われた幻獣は、ゆっくりと品定めでもするかのように、居並ぶ騎士達を見回している。
 やがて、幻獣はフランシスに目を向けると、ニヤリと笑ったかのように見えた。
 次の瞬間、大きな咆哮と共に、フランシスに向かって飛び掛ってきた。
 ブウン、と幻獣の腕が音を立てて空を切る。
「くぅっ!」
 大振の一撃をかわすと同時、フランシスは愛剣レーヴァテインを抜き打ちざまに一撃を放つ。
 が、無理な体勢からの攻撃はあっさりとかわされる。
「やああぁぁっ!」
 一人の騎士が、敵が体制を崩したと見えた瞬間に斬りかかるが、その前に敵の右腕がうなる。
 重く鈍い音と共にその騎士が吹っ飛ぶ。
 その勢いのまま、幻獣は再びフランシスに向かって飛び掛って来る。
「ちっ!」
 相手の繰り出してくる腕を剣で抑えようとするが、余りに重い衝撃にたたらを踏む。
 慌てて飛び退ると、幻獣は余裕を見せるようにゆっくりと体制を整え直す。
 ちらりと横目で先程吹き飛ばされた騎士を見やるが、殴られた顔面は誰だか判別がつかないほどぐしゃぐしゃであった。圧倒的な破壊力があるのだろう。
 内心、今の接触でレーヴァテインが折れずに済んだ事を感謝したい気持ちになった。
 とはいえ、油断するわけにもいかない。フランシスはしっかりと剣を構え直す。


 末端の騎士達は、いまや大激戦の中にあった。
 次々と襲い掛かって来る魔物相手に必死で馬を駆り、剣を振るい続けている。
「くそっ、きりがないぞ! 上からの指令はないのか!」
「知るかビクトル! さっきから全然伝令が来ないんだ!」
 もちろん、彼等には司令部で起きている戦闘について知る由もない。
「ええい、うざったい!」
 気合一閃、殴り掛かって来たグリズリーの腕を切り飛ばす。
 痛みでただ暴れ回るだけになった魔物に止めを刺すと、ビクトルはヒュドラに苦戦している同僚のクラックスの加勢に入る。
 3つの頭を持つヒュドラだが、知能はそれほど高くない。とはいえ、時折火を吹く事もあるし、やはり3つの頭がそれぞれ攻撃を連携させて来ると苦戦はする。
 グリズリーやレッドパンサーといった、野生の獣に毛が生えた程度なら油断しなければ何とかなるが、ヒュドラなど、こんな化け物を楽々倒すには、よほど技量が高い剣士か、巨体故に翼があっても飛ぶのは苦手な弱点を付いて空中戦に持ち込むか、さもなければ魔法を使うしかない。
 ビクトルもクラックスも、騎士とはいっても高名な剣士には足元にも及ばない技量しか持ち得ていないし、空中戦には空を飛べるわけもない。かといって、魔道士の血は引いていない。魔法を使うには、純粋に遺伝で決まる。
 ならば最後の手段、ひたすら物量攻撃。基本的な魔物への対処法であるが、ここまでの混戦になると、あまり満足な連携が取れなくなる。
 故に、少しずつ、戦いの前線は後退していくし、少しずつ、魔物にやられた騎士の数は増え、戦える騎士の数は減っていく。
 まだ、伝令は来ない。


 アレクサンドルの指示だろう、敵の幻獣とフランシスを半円状に大きく取り囲むように弓兵が配置された。
 とはいえ、攻撃に移るわけにはいかない。フランシスが間近にいる。
 フランシスも、自分が邪魔だという事は自覚している。だが、それ以上に、対峙する相手との睨み合いのせいで、下手に動くわけにもいかないのだ。
 弓兵は矢をつがえ、いつでも放てるように弓を引き絞っているものの、そのまま動けない。
 フランシスも、剣を構えたまま動けない。
 幻獣も隙を窺っているのか、動かない。
 無音の緊張が張り詰めている。なにかのきっかけで、大きく動きそうな予感がある。だが、それは受け入れ難い結果を招きそうな事も予感させていた。
 まだ、動かない。


 前線は防戦一方になってきたが、それでも陣の後退は止んできた。守る範囲が狭まれば、同じ人数でも守備がしやすくなる。
 先頭に盾を一列に並べ、その少し後ろから矢を放ちつづける。
 これが現場指揮官が思いついた苦肉の策のようだ。歩兵中心では、これが限界なのかもしれない。
 ビクトル、クラックスを始めとする騎兵は、今は兵をまとめて後退している。
 もともと騎兵は前線に少なく、本陣に温存されていたため、後の一斉反抗――があるかは誰にも分からなかったが――に備え、少しでも損害を減らすためである。
 ビクトルも、先の戦闘時に受けた傷を衛生兵に手当をしてもらっている。
 今は敵の動きが小康状態なため、手当の余裕もあるが、次の激突の際、この陣も保てるかは保障がない。
 それは彼等が一番分かっている。
 その時、本陣のある方角から、とてつもない爆音が響いてきた。


 緊張は意外な形で破られた。
「伝令ー!」
 駆けてきた一騎の伝令が、大きな声で呼ばわって入り込んできたのだ。
(ばかやろ!)
 フランシスの内心の舌打ちも虚しく、一瞬の動揺が一帯に走る。
 その隙を見逃さず、幻獣が動いた。
 繰り出される一撃を辛うじて受け流すと、第二撃に備え体勢を入れ替えた。が、フランシスはその選択を悔いる事になった。
 幻獣はそのまま駆け抜けて咆哮と共に巨大な火球を生み出し、有ろう事か、構える弓兵達に向かって投げつけたのだ。
 大轟音が轟き、衝撃で吹き飛ばされそうになる中で、弓兵の後ろに建つ建物が一瞬にして四散するのが見えた。
 なんとか体勢を立て直し、幻獣の姿を追って辺りを見回す。
 が、遅かった。
 再び、幻獣は火球を生み出し、さらなる攻撃に移ろうとする所だったのだ。
「ブレイク!」
 とっさに、フランシスは叫んでいた。
 彼の叫んだ言葉に乗って、魔法が発動する。
 今まさに放たれようとしている火球が、その場で爆散した。
 幻獣は慌てて飛び退ったが、その目はフランシスへと向いていた。
「へっ、来るなら来いってんだ」
 逆に、フランシスは幻獣にいっぱい食わしてやる事が出来たため、開き直りに近い感覚が支配するようになってきた。
 これまで一度たりと部下に見せた事のない、魔道師としての血も、それを後押ししている。
 幻獣が体勢を整える前に、すぐに、反抗に転じる。


 もちろん前線は大パニックである。
 頼みの綱の本陣に何かあったら、彼等はこの場で魔物達の手によって殲滅されるかもしれない。
 すぐに隊長達は伝令を走らせたが、すぐにそれどころではなくなった。
 機に乗じて、魔物の攻撃が激化し始めたのだ。


「レイ!」
 走り様、掲げられた左手から、光が一直線に幻獣を目指す。
 地面に光が突き刺さると、大きな閃光と共に爆発が起きたが、幻獣はすでに横っ飛びでかわしていた。
 幻獣は方向と共に再び火球を生み出した。それは高速で、今度こそフランシスを狙って迫っていた。
「ウォール!」
 火球はフランシスの目前で壁に阻まれたように爆発した。
 その煙を縫うように、幻獣の直接の第二撃が放たれるが、フランシスは予期していたように身をそらして難を避けた。
 ぶんぶんと、うなりをあげて幻獣の赤い腕が宙を舞い、フランシスは右に左に必死になって回避をする。
 上手く体をかわし、相手の脇に身を滑りこませた彼は、愛剣レーヴァテインを振り上げて敵のわき腹を狙うが、その瞬間、空間が弾けた。
 同じ魔道師なら、構成の展開などを見て魔法の発動を感じられるのだが、相手が魔法の生みの親たる幻獣の場合はそう簡単にはいかない。突然の攻撃に、彼は為すすべもなく吹き飛ばされた。
 ――追撃が来る!
 体勢を立て直す暇もなく、彼は次なる衝撃を覚悟をしたが、その時、彼の耳には信頼すべきアレクサンドルの声が響いた。
「放て!」
 ヒュンヒュンと矢が放たれ、幻獣に雨のように降り注ぐ。
 さすが音もなく生じさせた障壁に、矢は虚しく跳ね返されるばかりだったが、フランシスに立ち直る機会を与えるのには十分な時間だった。
 あの衝撃の中でも辛うじて放さずにいた大剣を構え直し、幻獣に向かって走る。
 将軍の攻撃に呼応するように弓での牽制はぱっと止み、新たな援護の時を待って動き出す。
「フリーズランサー!」
 彼の薙ぎ払う腕から、無数の氷の矢が放たれる。
 あっさりと敵の腕の一振りで払われるが、フランシスの魔道の腕前では、どうせ牽制程度の効果しか期待していない。
 しかし、重要なのはタイミングだ。腕を払った隙を狙い、大剣を振り下ろす。
 ガキン、という鈍い音が響くが、瞬間的に筋肉を緊張させたのだろう、幻獣の鋼のような筋力の前に、レーヴァテインが悲鳴を上げる。
 さすがにこれは計算違いだ。逆に危機に陥ったフランシスだが、今度も追撃はなかった。
 幻獣が何かに驚いたような表情を見せている。
 フランシスも驚いたが、すぐに体は反応した。返す刀でもう一撃を加える。
「グアァァァッ!」
 今度は威力も十分、幻獣の右腕を斬り飛ばした。
 間髪入れず、敵の心臓目掛け、剣を突き刺す。
 ズブリ、という嫌な感触が手に伝わって来る。
 幻獣はさらに抵抗を見せようとしたが、がっくりと膝を折った。
 まだ油断はせず、大きく息をついて、敵の巨体に刺さっている剣を引き抜いた。そのまま、剣を構えて2、3歩後退して様子を見る。
 この時、やっと幻獣が驚いた理由が分かった。敵のすぐ背後に、剣を構えるアレクサンドルの姿があったのだ。
「グッ、ガッ、グ、グフフフ……」
 血泡を吐きながらも、まだ幻獣は生きていた。
 周りの兵が、さっと緊張する。
「フフ、さすがは、レインダストの血が為せる技だけあるわ……」
 その言葉を聞き、フランシスの目が厳しく細められた。
「イフリートよ、貴様はなぜわが命を狙う」
 声が出る度に、ごぼごぼと鮮血が口から吹き出る壮絶な姿の幻獣は、ニヤリと笑ったかのように見えた。
「オーディン様も喜ばれよう……。だが、今はその力はあってはならない力だ……」
 彼の声に耳を傾けるようでもなく、幻獣は続けた。
「答えろ!」
 フランシスの声に怒気がまじる。
「ガフッ……。フフ、我が名を知る者よ。失われるべき遺物が残っていては困るのだよ。今もなお、古の……、魔大戦を望む者がいる限り……な……」
 しばらくの間、柄も知れぬ緊張が辺りを包んだが、当の幻獣が二度と動く事はなかった。

第3話−3第3話−5


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