FINAL FANTASY STORY


第4話−1
魔法都市フォン
Sorcery city Foun

「ひどいもんだな……」
 辺りを漂う腐臭に、アスカは顔をしかめる。
 短く切られた黒い髪が映える、端正な顔立ちの、まだ少年と云えそうな男だ。王立魔法学院の上級魔道師たる黒のローブを着ることが許されている辺りから、ただの平凡な青年とは一線を画く品位が垣間見える。
 カルナス城の主宮殿。その玄関となる大広間は、そこかしこにたくさんの人、魔物の屍骸で溢れんばかりだ。
 しかも、昨日からやっと現場検証が始まったばかりなのである。そうそう片付ける訳にもいかず、腐り始めた死体が多くなってきたため、少し入り口に入っただけでひどい悪臭に見舞われた。
「アスカ……」
 掛けられた声に、彼は振り向く。
 彼とは対称的な、透けるような白い肌に金髪碧眼の少女である。彼女はアスカのような黒のローブではないが、黒の簡易型ローブを纏っている。王立魔法学院の制服のようなものでもあり、また上級の資格を持たない魔道師達が纏う正装でもある。
 そんな少女であるが、さすがにこの悪臭には耐えきれず、口と鼻をローブの袖で隠すようにしている。
「サリナか。クラインとかと一緒に外で待っていればよかったのに」
「そういう訳にもいかないじゃない。こんなことになっちゃったんだから……」
 その眼差しは、倒れている人達に向けられている。
「……そうだな」
 そう、アスカは答えながら、カルナス城の奥へと足を進め始めた。
「王立魔法学院の方ですね?」
 入口から少し進むと、警備に当たっている騎士が近寄ってきた。
「そうです。王立魔法学院のアスカ・シュナイダー上級魔道師です。彼女はサリナ・フェン。また、すぐ外にクライン・エンハンス、シリア・レイ」
 紹介されたサリナは軽く会釈をする。
「学院から連絡が来ていると思いますが?」
「はい。ただいま、担当の者をお呼び致しますので、ここではなんですので、外でお待ち頂ければ」
「……そうだな」

 室内の惨劇と全く違う、春の陽射しに照らされた宮殿の前庭で待つこと暫し、聖騎士団の装備に身を固める騎士が、アスカを見つけて駆け寄ってきた。
「申し訳ございません、遅くなりました。私、聖騎士団の第410戦闘中隊指揮官、ハリー・レガルです」
 差し出されたハリーの右手に、アスカが手を差し伸べる。
「王立魔法学院のアスカ・シュナイダーです」
 サリナ、クライン、シリアも順に自己紹介をしつつ握手を交わしていく。
「早速ですが、学院の方から調査の第1陣として派遣されてきましたので、内部、よろしいでしょうか?」
「ええ……」
 アスカの申し出に、ハリーは少し困った顔をしながら、
「調査する上に深刻な危険は取り除かれています。城内に侵入した魔物の掃討も完了しています。ただ、放置されている死体が腐臭を放っておりまして。片付けも身元の確認などの作業で進まないため、見た目と匂いは我慢してもらわないと」
 そう聞いて、サリナは天を仰ぐ。聳え立つ美しい白亜のカルナス城。そして、内部の悲惨な現実。
「……綺麗なお城なのにね」
「まあ、それくらいは仕方ないさ。我慢するとしよう。入らせてもらうよ」


 確かに惨劇としか云い様がなかった。
 グリズリー、パンサー、フロータイボール、ウルヴァリンといった程度の低い魔物から、ドラゴン、ウィルム、ジャイアント、トレントやボムといった、強力な魔物や稀少な魔物まで、所狭しと死体が並んでいる。間を埋めるように、赤く血塗られた鎧の傷跡も痛々しい騎士達、恐怖に駆られて死んでいったのだろう、悲壮な顔付きの宮廷の小姓、宮女達……。
 主宮殿の大広間からこれである。それはアスカ達の気持ちを萎えさせるには十分であった。
「こちら、騎兵団団長のアルガス将軍の……」
 案内役のハリーの指し示す先には、今なお大剣を掴んで放さない、壮年の騎士の遺体。
 アスカ達は無言で、右手を左胸に当てる最敬礼を行う。
「著名な方々で犠牲となったのは……?」
 恐る恐るといった感でクラインが尋ねる。
「……魔道士団のリディア将軍が、重傷で市内の病院におります。また、評議員でも20名ほど、病院で手当を。ですが……」
 あまり、聞きたい話ではなかった。

「当日、直前まで会議が行われていた場所です」
 主宮殿2階の第1会議室。第2会議室に次いで広いこの会議室にも、惨劇の魔の手は伸びていた。
 入り口のドアのところは、周りの壁ごと無理矢理破壊したようで、証拠にかなり大きなグリーンドラゴンが、室内のちょうど真ん中に、机や椅子を薙ぎ倒した状態で倒れている。
 アスカが近寄ってドラゴンを検分し始める。
「大きなドラゴンね……」
 いろいろ見ているアスカを横目に、その大きなドラゴンの傍らでサリナが率直な感想を漏らす。
「そうね。こんなのに襲われたら、あたし……」
 シリアも呟く。
「2人とも、ちょっと見てみろよ」
 アスカに呼ばれてサリナ達が行くと、アスカとクライン、ハリーが何かを詳しく見ている。
 ひょい、と顔を覗かせたシリアが驚いて身をすくませる。
「このドラゴンの頭、すごいね」
 クラインが感嘆したように云う。
「ああ。かなりの術者だね。最低でも魔法剣士団クラスだよ」
 アスカも同意を示す。
 シリアの反応に、サリナは恐る恐る身を乗り出してその物を見る。
 ドラゴンの頭部。全体の形は綺麗に残しているが、額に当たる部分に握り拳大の穴があいている。穴の奥がどうなっているのかは恐くて見れた物ではないが、かなりのエネルギーを収束して放たれた魔法による損傷と云うことは、彼女にも一目で分かった。
「ねえ、魔法剣士団って、当日はもう出発していたんじゃなかったかしら?」
 シリアが思い出したように云う。
「……そうだったか。ハリーさん、そのあたりは?」
「魔法剣士団は1部隊が残っていましたが、市内で作戦していたとの事で。宮廷内では聖騎士団が主活動でしたから。ですが、私も聖騎士団ですが、事件以後にクラジミールから召集されたので詳しくは……」
「……じゃあ誰だろ」
「話によると、アルカディア将軍が残っていらしたと云うのですが」
「アルカディア将軍がいた! それはすごいことだが、安否は!?」
 今や王立魔法学院の憧れの的となっているアルカディアの名を聞いて、クラインが興奮したように云う。
「いえ、まだ行方不明です。予定されていたユリア将軍の遠征部隊との合流もなされていないようですし……」
「……あのお方の事だから、大丈夫だろう。そのうち、元気な姿で見つかるさ」
 そう云うアスカの顔は不安そうでもあった。

 主宮殿の視察の後、東宮殿に移動した彼等は、再び興味を引かれる場所を見つけた。
「ここもアルカディア将軍の戦闘の跡かしら?」
 サリナが指す辺りは、一体に大量の魔物が黒焦げとなって倒れている。
「電撃系の魔法ってトコかな。……でも、いくらなんでもこんなに威力は出ないだろ」
 アスカの呟く声に、クラインが反応する。
「何度も使ったと云う可能性や、何人かで一斉に、という可能性もあるんじゃないか?」
「そうかもしれないわ。学院のスカウト生でも、こんな威力を出せる術者は聞いたことないもの」
 シリアも同意したように云う。だが、アスカはあっさりと、
「これは一度に使われた跡だよ。倒れ方や炭化具合の方向から云って――」
 ここでアスカは彼等の入ってきた小広間の入口を指し、
「あの辺りだな」
「あそこから? 距離がありすぎるだろう」
「でも高威力のまま部屋の端まで届いてるのは事実さ。こればかりは人数が集まっても無理な事だし」
 そのレベルの差に、彼等はただ唖然とするばかりである。
「ねえアスカ、あの辺はどういうことかしら?」
 サリナが指す方を一同が見る。
「……なんだろ」

 近寄ってみると、その位置だけぽっかりと間が空いている。室内の床のほとんどが魔物の死体で埋まっているような中で、不自然なまでに隙間が空いているのだ。
 周りを調べると魔法での損傷による死体と違って、物理的な損傷、つまり剣などの攻撃による死因のものが含まれていた。
「ここで戦闘があったんだな。人の死体はなし、か」
「3人くらいが動くのに良いかもね。でも、防衛って感じかしら?」
 シリアの云う通り、彼女とクライン、アスカが入って、サリナが入るには狭い感じのする空間であった。
「ねえ、3人ともそこでシェルの魔法、張ってみて」
 突然のサリナの提案に、アスカ達は一様に訝しげな表情を見せる。
「なんで?」
「電撃の魔法が放たれた時に、その位置でシェルを使っていればそんな隙間が出来るかなあ、って思ったの」
「へえ。ま、いっか。電撃の魔法に対応するには、けっこう防御範囲を狭めないとダメだな」
 アスカの指示で、クラインがシェルを唱える。淡く光る半透明の膜が彼等を包む。
「あ、ちょうど良い感じね。もうちょっと範囲が広いくらいかしら」
 サリナのOKの指示で障壁が消される。
 対魔法用の防御障壁は、魔法の根幹となる音の振動を遮るため、内部には声が届かない。
「どうだった?」
「良い感じよ。もうちょっと範囲が広いと、ちょうどこの空間と一致する事になるわ」
「へえ。でも誰がここに居たんだろう」

 ハリーが一番不可解な場所として、東宮の南塔をアスカ達に案内した。
 最上階に上がる3つ下の階層で、最初の痕跡が確認できた。
「聖騎士のフレリックという者です……」
 ハリーの悲しげな紹介の先には、壮絶な戦いの末、力尽きた一人の戦士の姿。
 顔も鎧も、全身血に塗れているが、今なお床に刺さった自らの剣を支えに、両膝を突きながらも襲い来る魔物を威嚇するように立っている。
 彼の勇姿をしっかりと心に刻み付け、最敬礼以外、何も云わずにアスカ達は先に進んでいくことにした。

 最上層の1つ下。
 もう、すぐに分かった。一つの部屋が開けっ放しになっているが、その室内の天井がなかった。
「これも魔物の仕業なの?」
「いいえ。上に出れば分かります」
 ハリーの云う通りに屋上に出る。
「……ああ」
 アスカの感想はそれだけであった。
 塔の東寄りの床が吹き飛んでいる。いや、溶けている、が正解か。
「全力を出しても、俺には出来ないな。こんなの、人間業じゃないって……」
 クラインの言い分は十分説得力があった。
「魔物にも無理だろうね。なんだろう。誰かが禁呪でも使ったか、さもなきゃ幻獣でも……」
「禁呪に幻獣……、そんなことって」
 アスカの呟きに、サリナもクラインも、シリアもハリーまでも慄くだけだった。

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