FINAL FANTASY STORY


第4話−3
魔法都市フォン
Sorcery city Foun

 ガタゴトと、赤い煉瓦で舗装された、街へと向かう道を馬車が進んでいた。
 王立魔法学院は、フォン市の郊外に建っている。市内にも王立魔法学院はあり、とても豪華な造りの建物を持っているが、大抵は儀礼用であり外来用である。本来の、訓練施設としての役割は、郊外の専用の施設で行う。その施設が、王制時代から戦時の緊急の要塞としての機能を持っているためだ。
 もっとも、魔法が声によって成り立つ以上、魔法発動のための声やら爆音やらで訓練はうるさいし、それ以上に暇な子供はうるさいために、郊外にある方が都合が良いというのもある。
 当然街に出るためには歩く必要がある。お金を持っている関係者や教師、上級魔道師あたりはよく馬車を使う。お金の少ない生徒でも、一番安い馬車を何人かで集まって割り勘で払うなり、乗り合い馬車を使うなりすれば、けっこうなんとかなる。
 というわけで、アスカ達は財布に余裕は無いのだが、馬車を使っている。
「……なんでこーなるかな」
「ま、まあ安い馬車代で、少しは歩かずに済んで楽になったと思ってさ……」
 アスカのつぶやきに、原因たるレイニーとシリアがあさっての方を見ながら答える。
 便乗。
 アスカとサリナが出掛けようとした所を割り込んで来て、一緒に行こうと半ば強引に誘ったわけである。
「…………」
 アスカのそれはそれは冷たい視線に、レイニーとシリアは視線をさまよわせる。
 サリナに援軍を頼もうにも、彼女は彼女で抗議の視線。けっこう怒らせると恐いのは知っている。
「あー、うん。馬車代、少しは多めに払うからさ」
「なに、全額持ってくれるの?」
「え? い、いや、それはちょっと……」
 シリアの発言も、すぐに声が小さくなった。
 気まずい雰囲気の中、ほどなくして十二星座の塔のうち、南南東に位置する処女宮の塔が近付いてきた。
 結局、2人のデートの最初から、雰囲気ぶち壊しという感じである。

 市内の中心、カルナス城の前庭に着くと、レイニーとシリアはばつが悪そうにお金を払った後、さっさと逃げてしまった。
「まったく、明日には嫌がらせの雨だ」
「ふふ、そうね。しっかりお返ししなきゃ」
 ちょっと不機嫌なアスカと対照的に、やっと2人になれた嬉しさから、笑顔になったサリナが答える。
「で、どこ行く?」
「うん、ちょっと欲しい物があるの。カプリコーンストリートに行こう」
 その辺りはクラジミール方向への街道があるため、フォン市内でも商店が集中している地域である。
 アスカが頷いて歩き出すと、サリナが彼のすぐ傍に並んだ。そのまま腕を絡ませてくる。
 サリナが笑顔で見返して来るのを確認すると、ちょっと顔を紅潮させながらアスカはまた進み始めた。


 入口の扉に取り付けられた鈴がカランという音を響かせると、店内でたむろしている多くの客が新たに入ってきた人物に目を向け、すぐに興味を失って自分達がいままでやっていた事を再開する。
 とはいえ、全部の客が興味を失った訳ではない。何人か、その新客に向けて、こちらに来い、とでも云うかのように手を振っている。
「おう、リック。今日は授業じゃなかったのか?」
 最初に誘ってきた客が、空いている席を示しながら声を掛ける。
「いや、先生が風邪引いて休みだってよ。やあ、ジョディ」
「ハーイ、リック」
 リックと呼ばれた学生は、空いた席の隣の顔見知りの女性に声を掛けてから座る。
「すぐに女に声掛けるし」
「うっさいな、ハインケル。こういうマメさがないからモテないんだ」
「よけーなお世話だ」
 リックとハインケルのやりとりを見て、ジョディは笑い出した。
「ご注文は?」
 割って入ったのは、これも顔見知りのウェイター。
「お、ハーディ。何でウェイターしてんの」
「何でって、バイトだよ。ご注文はありませんか?」
「注文ね。うん、何しようか……」
 このようなやりとりが普通にある。
 周りの客も、大抵は学院の制服を着た学生や、市内の私立、公立学校の制服を着た学生、私服の若者などばかり。
 学生の溜まり場のような店だ。

 再び入口の扉に取り付けられた鈴が鳴る。いつものように、店内の客の視線が集まり、今度はちょっと注目を集める。
 入ってきたのはレイニーとシリア。彼女達もよくこの店にやって来る。
「やあ、レイニー、シリア」
「あ、レイニーさんにシリアさん。お休みですか?」
「シリアー、久し振りっ」
 彼女達が進む先から次々声が掛かる。さながらここに集う学生達のアイドルだ。
 二人は適当に愛想を振り撒きながら、店の奥よりの席につく。ちょうどリック達の近くだ。
「や、シリア。珍しいね、こんな昼間から。レイニー、この間はありがとな」
 リックが声を掛ける。レイニーが返事をする。
「リック、この前遅くなって寮長なだめるの大変だったんだから。集会するのも時間考えてよ」
「あー、ハインケルが引き止めたせいだな。うん」
「俺のせいかよっ!」
 ハインケルが思わず声を上げて抗議をする。
「レイニー、また集会行ってたの?」
 シリアのあきれた声。集会とは、学生運動の会合だ。
 直接選挙による民主制を採っているカルナスでは、政治を自分達が動かしているという気運から、若いうちから政治活動に関心が高い。
 特に、国外からの留学生は政治に参加は出来ないが、自国の制度次第では選挙を経験できない者もいる。そのため、ますます政治への憧れからか、学生運動に熱を上げる者もいる。
 元々カルナスは学生街でもある。世界中から志気旺盛な若者の集う場所である。学生運動が盛んになるのは自然の成り行きでもあった。
 この店はそうした若者の集う店である。
「いいじゃない、別に行ったって。それに、留学終わったらロマンダに帰らなきゃならないんだし。今のうちにやりたい事やっておくの」
 レイニーの故郷ロマンダは王制である。到底民主政治とは縁が無いだろう。
「……もう魔道師資格持ってるのに、全然帰る気無さそうじゃない」
 ぽつりとシリア。レイニーは聞こえない振りをしている。
「ロマンダでカルナス留学できるとなると、けっこう良い家系じゃない?」
 ジョディが遠くから口を挟む。
「え? どうだろう。確かお父さんの従兄弟が今の王室だったかな」
 レイニーがとんでもない事をさらりと云う。
「それってけっこう凄い血筋だと思うんだけど」
「普通ならお姫様だぞ、それ」
 リックとハインケルが次々とぼやく。
「そうなのかな。何度か休みに帰ったけど、短い期間だけだったからお城に行ってないし、留学以前も行った記憶が無いなあ。あんまり実感ないからそう思うのかしら」
「そういうものなの……?」
 シリアも長年付き合っていて初めて知ったらしく、呆れ顔である。
「ま、まあ。二人がここにいるってことは、今日は休み?」
 気を取り直してリックがシリアに尋ねる。
「そうよ。5日くらいは空いているけど、往復が大変だから来るにはたまに、ってくらいだと思うわ」
「じゃあアスカも近く来るのかな」
「今日は来る時は一緒だったから、そのうち来るかもね。今はデート中みたい」


 活版印刷技術の普及によって、今では驚くほど簡単に書物を手に入れる事が出来るようになった。
 特に――後世の時代に産業革命と呼ばれる――20年ほど前からの蒸気機間の普及のおかげで、市民生活の水準が高まり、本を買うなどの余裕が出来た事も印刷技術の普及に一役買っている。
 一度革新的な技術が着目されると、新技術が次々と発明されていった。今歩く大通りも、道の両側に等間隔でガス灯の支柱が立っている。つい最近になって建てられた物だが、初めて夜に静かに輝く灯りを見たとき、正直驚いたものだ。
 古代ミシディア帝国期の遺跡はマイトラードに集中していて、当時の技術を取り入れた新技術は彼の国の最も誇るものだが、ガス灯や印刷技術などの革新技術はカルナスの方が上だと思う。
 そういえば、先日、飛行機という乗り物が空を飛んだという。どんな技術かは分からないが、また誇れる技術になるのだろうか。ミシディア期には、マテリア昌石を使って大きな船を空に飛ばしていたというが、似たようなものなのだろうか。
 今度、同じレミントン教室のミックに聞いてみよう。彼はそういった機械とか、とても好きだからな。
 まあ、一度聞いたら延々話し出すから、適当に流さないと疲れるけど。
 そんな取り留めのない事を考えながら、アスカはサリナの買物を待っていた。
 最近流行している、新進作家の小説を買いに来たらしい。アスカが買う本はといえば専門的な学術書であったりするので、あまりサリナの興味はそそらないが、小説ならサリナも好きらしい。
「お待たせ〜」
 店内からサリナが出て来た。手には文庫本が2冊。お目当てのものは見つかったようだ。
「見つかったみたいだね」
「うん、最後の1冊だって。ちょっと遅かったらまた大変な目に合うとこだったわ」
 さすがに印刷術が普及したと言っても、製本は大変なので数はそう出回っていない。そうそう都合良く手に入るわけではないが、今回は運が良かったようだ。
「さて、これからどうしようか」
「そうね。目当てのお買物、終わっちゃったしね」
「じゃあ、いつのもお店にでも行ってみる? シリアやレイニーとかがいると思うけど」
「うーん、まだ早いと思うなあ。もうちょっと、せっかくのデート楽しみたいよ」
「そう? じゃあもうちょっと街を歩いてみようか」

 結局、2人が例の店に着いたのは、日も傾いて空が紅く染まる頃であった。
 その間、やはりと云うべきか、余計なものを買ったりして、軽い財布をさらに軽くしてアスカは困っていた。

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