FINAL FANTASY STORY


第4話−4
魔法都市フォン
Sorcery city Foun

 相変わらず、その店は学生の溜まり場だった。
 昼間からたむろしている学生と、夕刻になってやって来た学生が、いたる所で入れ代わり、立ち代わり談笑を続けている。
 実際、人数は増えるばかりのようであった。
 昼前にはまだ空きがあった、店の前の通りに置かれたテーブルも、いまや学生で埋められている。
 レイニーとシリアも未だに店内でおしゃべりを楽しんでいた。
 すぐ近くの席には、ジョディやリック、ハインケルもいる。

「素朴な疑問なんだけどね」
 レイニーが真剣な面持ちで切り出す。
「アクアマリン・ウーズって、なにが楽しみで生きてるんだろう?」
「いや、んなこと言われても……」
 顔と中身が一致していない質問に、ガクっとうなだれるリックとハインケル。
 ジョディが一応真面目に返答する。
「アクアマリン・ウーズって、海の幻獣が作り出した魔法生物よね」
 シリアが呆れ顔で続ける。
「幻獣ウンディーネね。なんか、ナマコを元に作ってみたんじゃないかって話、聞いたことあるわ」
 その言葉に、レイニーが不思議そうな顔で答える。
「ナマコかぁ。ナマコって、あのぷにぷにした変な生き物でしょ?」
「変なって、まあ確かに変だけど、貝の変種だったかなんだったかの軟体動物よ」
 ジョディが再び答える。
「ふーん。ナマコも何がしたいんだか良く分からない顔してない?」
「うーん、どうかな。でもけっこう可愛い顔してると思うけど」
「……そうかぁ?」
 ジョディの発言に、ますますうなだれるリックとハインケル。だいぶシリアも引き始めた。
「よっ。団体さんで何を話してるんだい」
 そんな微妙な会話が続いていると、後ろからアスカが乱入してきた。サリナも一緒だ。
「お、アスカ。来たのか。サリナも」
「こんばんわ、リック」
 サリナも笑顔で挨拶をする。
「あー、サリナ。デート終わり?」
 シリアも声を掛けてくる。
「うふふ。でも今日は充分楽しんだから」
「羨ましいわねー」
「ま、座りなよ。さっきからレイニー達が変な会話をしてて、ついていけない」
 ハインケルが薦める。店の長椅子に詰めさせて、アスカ達を招き入れる。
「変な会話?」
 アスカがおうむ返しに問い返す。
「ああ。ナマコの生き様がどうとか」
「あー、それは、まあ、いろいろあるだろ」
 適当に返す。当のレイニーとジョディは、軽く挨拶しただけで奥の方で二人だけの会話を続けている。
「放っといていいかもね」
 サリナの言葉にあっさり頷く4人。

「そういや、アスカ、カルナス城の調査に入ってたんだってな」
「ああ。あんまり、おおっぴらに言える内容じゃないけどな」
 ハインケルの質問に、アスカは浮かない顔で答える。
「そうなのか? もうけっこう噂になって広まってるぞ」
「広まってるって……」
「城に入った兵士やらなんやらから広まってるからな。あんまり機密って感じじゃないし」
 気楽に言うリックの言葉に、アスカは間を置いてから答えることにした。
「……どのくらいの噂になってるんだ?」
「ここに集まっている学生連中は、そういうのが好きだからな。勝手に集まって来るさ。まあ、一番多いのが、幻獣が出たんじゃないかってトコか。あと、アルカディア将軍が戦死したんじゃないか、とか」
 その言葉を聞き、アスカがふぅっ、とため息をする。サリナとシリアが、良いのか、とでも言うかのように心配そうに彼を見やっている。
「一応、まだ確実な訳でも無いんだけど……」
 周りのハインケル達は心持ち体を起こして、彼の話を聴く体勢に入る。
「幻獣が現れたって言うのは、多分、かなり確度が高いと思うよ。魔物の戦闘の際の戦術、配置などから、それなりに高度な地位にいる幻獣が統率をしていたんじゃないかってことらしい」
「なんでそんなこと分かるの?」
 いつのまにか話に加わっていたジョディが疑問を投げかける。
「……ジョディって学院だよね。教室でそれ教えてないの?」
「先生、そっちの話には明るくないみたいなの」
「そ、そう。じゃあシリア君、解説を」
 ご指名に、最初はきょとんとしていたシリアだが、少し天井を見上げてから、真面目な顔で話し始めた。
「ええっと……、魔物の内、知能レベルの低い怪獣と呼ばれる種類は、高等な魔法技術を持った幻獣の扱う、精神支配によって比較的簡単に従わせることが出来ます。高位の幻獣になればなるほど、それは大量に、長時間支配することは可能です。
 で、魔獣となると、幻獣との混血の際の相性次第で、上位の力への服従という、幻獣としての本来の性質である部分にが強く残る場合があって、それによって幻獣に従うことを強要されます」
「はい、良く出来ました。
 今回は数については文句無く、魔獣についても、ドラゴンやジャイアントといったかなり強力な魔獣も含まれていたから、統率する幻獣はかなり高位になるって訳」
「ふ〜ん」
 今度はリックが手を挙げる。
「アルカディア将軍については?」
「戦死とは思わない。遺体は見つかっていない。だけど、無事かということも分からない。アイゼルドに魔法剣士団が行っているけど、そちらと合流できたかはまだ確認が取れていないし、他の所も分からないからね。
 ただ、その時に城内にいたことだけは確かだろうね。かなり大規模な魔法の痕跡があったけど、その術者はアルカディア将軍ぐらいしか、名のある術者はいなかったっていうし。他の普通の術者じゃあ、あの威力は出せないと思うから」
「どのくらいの威力だったんだ?」
「そうだね、部屋いっぱいの魔物の群れに対して、不意打ちとはいえ、一撃で大半を戦闘不能にするくらい。サンダガ級の雷系の魔法だと思うけど、あれだけの数を巻き込むとなると、僕にはちょっと、な」
「はぁ。この中じゃ、アスカが一番の上手なんだよな。それが敵わないんじゃ、俺らには到底無理か」


 新たな一団がどやどやと店に入って来る。
 その中の幾人かが、アスカの姿を目聡く見付けてやって来る。
「アスカさん! 噂は聞いてますよ」
「おう、ディラック。それにエスティンシアとミラルダか。いきなりそれかよ」
 ディラックと呼ばれた年かさの青年が、手をひらひらさせながら笑顔で答える。後ろに続く二人のヴィエラ族――人間に似てはいるが、全身の体毛と、長い大きな耳が特長の種族だ――の少女も共に笑顔で手を振っている。
「当然でしょう。今の所、留学生で城内入ったのはアスカさん達ぐらいなもんです」
「まあ、そうだけど」
 ディラック達は適当に、空いた席を調達して勝手にアスカ達のテーブルに紛れ込んできた。
 席の自由移動はここではいつものことだ。店側も、どうせ若者に何を言っても無駄だとでも言うかのように、しっかり勘定さえ払えば良い。あとは、最低限のマナーさえ守れば文句無し、という態度である。
「やっぱり中の話を聞きたいですねえ」
「そういうディラックこそ、親からの情報があるだろうに。親父さん、軍の中隊長だろ?」
「親父はフォン市軍ですから。内部は聖騎士団の管轄になっていて、そうそう部外者は入れないということです」
「うーん、また話すのか? 今さっきこいつらに話したばかりだぞ?」
 リックがにやりと笑う。ディラックが悔しげな表情を浮かべるのを見て、さらににやにや笑う。
「あーん、でも私達もアスカさんのお話聞きたいですよぉ」
 ウィエラ族の一人、エスティンシアと呼ばれた少女が甘えた声でねだって来る。彼女はいつもこのような感じだ。その言葉にアスカは苦笑する。
「あー、うん。なんかそっちのルートでの情報があれば、交換できそうだな」
「本当ですか? 良いですよ」
 と、ディラックはすぐにメモ帳を取り出して、ぱらぱらとめくり出した。
「ええっと、白洋の10日朝、まあ今朝の段階の情報ですね」
「良い情報持ってそうじゃないか」
 アスカがそのメモを覗きこもうとしながら言う。隣に座っていたハインケルは遠慮のカケラも無く覗き込んでいる。
「まず国際情勢について。昨日の段階で、ファルテからの正式な使者が到着、ラーダ王国の陥落が確認されています。その後、帝国は北アイゼルドを占領、現在はモーリア坑道を間に睨み合いとなっていると思われます」
「ラーダが陥ちたのは、もう前から噂にはなっていたからな。ラーダの人には悪いけど、こっちの立て直しが終わるまで待ってもらわなきゃならないな。そういや、派遣したっていう部隊はどうなってるんだ?」
「南アイゼルドとカーネイで別命あるまで待機中です。一応、国境警備隊、市軍、予備役などを集めて防衛線を張っている、という事らしいです」
「……となると、やはりカルナス市の動き待ちという事になりますね」
 首をひねりながら、リックが考えている事を口に出した。サリナとシリアも同意する。エスティンシア達も同じ考えのようだ。
「まあ、そういうことになるか。結局はアルカディア将軍の安否が大きく関わってくるんだろうなあ。評議会、混乱してるだろ」
 その事はミラルダが知っているようだった。ディラックから話を引き継ぐ。
「ええ、そうですね。一応、臨時の評議会議長を選ぶ事になったようですが、やはり急な事だったのか、上院議長を一時的にでも、という話も、与党内での権力争いでなかなか決まらないようです。メドック評議長は優秀な方でしたから、今の上院議長と比べますと、やはり能力的にはかなり劣ってしまうために、内部の賛同を得られない、というのが正直な所のようです」
「まあ、ありそうな話だな」
「宮殿があんな状態なんで、議員会館で出来るだけの活動に入っているみたいです。超党派の若手議員によって、復興に関する法律案が提案されて、今は正式な採択は無理でも、事後承認の形で法制化することで了承されました。とりあえずの復興事業はスタート、ですね」
 ほお、という顔のアスカ。情報が意外と良質のもので、満足しているのだった。
 そんなアスカの顔を見て、今度はディラックがにやりと笑う。
「良い情報でしょう。もうちょっとあるんだけど、やっぱりここはアスカさんのお話を聞いてから、ねえ」
 苦笑いをしながら、アスカが仕方なく答える。
「しょうがないな。じゃあ――」

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