FINAL FANTASY STORY


第4話−5
魔法都市フォン
Sorcery city Foun

 その日は朝から雨だった。
 カルナス、特にフォンの位置する南平原の春は、晴れの日と雨の日が交互に続くのが特長である。あの事件の起こった日のように、嵐になることはそう無いが、それでもこの静かな雨は、晴れた日が続く冬から考えれば、春の訪れを告げるものであった。
 アスカは前にもこんなことがあったななどと思いながら、ぼーっと窓際の席で、遠く雨に霞む街を眺めていた。
 昨日は日付けが変わる頃にはなんとか学院に帰りついたアスカとサリナだが、レイニー、シリアを始めとした血気盛んな若者達は、あの後、学生集会に行ってしまい、今朝になってもまだ帰って来ない。アスカ達は学生集会自体にはほんの少し顔を出しただけで、他の学生連中に惜しまれつつも家路についたのである。

「どーしたの、アスカ?」
 不意に声を掛けられて、我に返る。目の前で、サリナがこちらの顔を覗きこんでいた。
「ああ、サリナ。おはよう」
「うん、おはよう。何見てたの?」
「いや、ただなんとなく、かな」
「そうなんだ」
 納得したというより、それこそなんとなく聞いただけの様子で、サリナはそれっきり聞いてこなかった。そのまま、アスカの前の列の席に陣取り、頬杖を付きながらこちらを眺めているだけである。
「連中、まだ帰って来てないのか?」
「レイニーとシリアはそうみたい。クラインは、どうなのかな」
「あー、たぶんスフレと一緒なんじゃないか。スタンレイ教室も休みの掲示があったから」
 アスカ達の所属するレミントン教室は全部で7人。クリス・レミントン教師はクラジミールに主張中、クラインはデート、レイニーとシリアはまだ帰っておらず、ミックとリンジーは明日までコポールで仕事。
 要は……
「……誰もいないのね」
「そーだねえ」


 誰もいないのではすることがない、とばかりに、個室を割り当てられているアスカの自室で、2人は自習をしたり雑談したり、時にはいちゃついたりしていたが、午後になってから、外が妙に騒がしくなってきた。
 気になって窓から外を覗いてみると、戦闘用の軽装服を身に付けた学生が何人か走っていくのを見ることが出来た。
「どう?」
 サリナが後ろから覗きこんで来る。
「さあ、でも何かあったのかな。ちょっと出てみよう」
 寮の廊下はほとんど人がいないが、寮の玄関を出れば何人かの学生を見付けられた。ある程度の年齢の者はほぼ全員、戦闘着に着替え、顔は怒りのような表情を浮かべている。
「アスカ! サリナ!」
 ジョディだ。血相を変えて走って来る。
「どうしたの、ジョディ。そんな顔して、何があったの」
 サリナが息を切らせたジョディを介抱しながら聞く。
「はぁはぁ……、大変なのよ!」
「いいから落ち着いてから話せって」
「それどころじゃないのよ! カルナス市の東の街道から、マイトラード軍が侵攻してきたの!」
 突然の突拍子の無い言葉に、アスカとサリナはきょとんとして目を合わせる。
「マイトラード軍が?」
「侵攻?」
「そうっ! 軍も出たけど指揮官はいないし、奇襲で突然だったから市内への侵攻が始まってるって話! 学院生や私学生も急いで援護に入ってるけど、大変なことになってるって!」
 はっとカルナス市の方を振り向くと、町の東の方向から幾筋かの煙が立ち昇っていた。アスカは唇を噛み締める。
「色は?」
「混乱してて、情報は入って来ていないわ」
 すぐに彼は行動に出た。戦闘着を取りに寮へ走る。サリナも自分の戦闘服を取りに行ったようだ。
 自分にあてがわれている個室に入って、すぐに着替えを始める。
 戦闘着は肌にぴったりとした作りになっている。対刃用の装甲も内蔵し、胴体を中心に装甲を追加する事も出来る。間接は動きを妨げないように工夫を凝らしてある上、何個所にも武器を隠したり保持したりする所がある。黒い色とも相俟って、学院生の実戦時の装備として重宝している。
 適当な武器を見繕って装備する。主力となるだろう短剣を2本に、あまり得意ではない投げナイフを隠しに。アスカは一応長剣も持っていく事にする。
 急いで校庭に戻ると、ジョディが待っていた。
「ジョディ!」
「一緒に行動した方が良いと思って。一応、何人か集めてみたけど」
 見れば10人程か、アスカと同年ぐらいの者から、見るからにまだ幼年教室の者までが集まっている。サリナも着替えを終えて加わって、全員がアスカの方を見る。
「……資格を持っていない者はダメだ。それと、何人かが学院の守りに回った方がいい。学院は要塞の役目もある。誰か教師が防衛の指揮を取ってくれたら良いんだけど」
「私がやるわ」
 横合いからの言葉はカルア・スタンレイ教師だった。傍らにはスフレ以下のスタンレイ教室生の他、クラインの姿も。
「あ、じゃあスタンレイ教師にお願いします。上はなんと?」
「あなたの言った通り。教師を中心に、学院への敵の侵入阻止が主任務で、一部は市内へ派遣されるわ」
「分かりました。クラインはどうする?」
 アスカの問いに、軽くスフレを見た後、進み出る。
「俺も行くよ」
 軽く頷いて、アスカは集まった中から5人を選んで、残りはスタンレイ教師の指揮下に入らせた。
「時間は無い。急ぐぞ」
 サリナ以下が頷く。そしてそのままアスカを先頭に駆け出していく。
「クライン……」
 スフレが心配そうな顔でクラインを見る。
 視線に気付いたクラインは、親指を立てて優しく笑うと、アスカを追って走り出した。


「おう、アスカ!」
「アスカ!」
 市内に入ると、アスカ達の元へ次々と学生が集まって来る。学院生も、私学生も、全員が程度は様々とは言え、武装をしている。
「状況は?」
 50人ほどに膨れ上がったところで、アスカが問うと、すぐにディラックが学生の中を掻き分けて近寄って来る。
「敵は奇襲攻撃によって既に第1防衛線を突破、一部が市内へ流入を始めています。色から、青衣騎士団を中心とした部隊と思われます。公爵騎士団が2つほど付いていると見られますが、どこの公爵かは不明です。
 こちらの総指揮は騎兵団副将のオーリオ・ウォールパート准将が執っていますが、先日の事件の影響で、部隊再編が途中だったため、情報網があまり芳しくない様子。
 市軍は防衛線に出張っているため、市内では魔道師同盟が中心となって、予備役、学生が防衛に入っています」
「学生はどこに集まってるんだ?」
「大体が双子宮の塔です。白洋宮が予備役部隊、金牛宮が魔道師同盟が防衛線を張ってます。他の塔も、警備隊が封鎖しています」
「それでも敵が侵入してるっていうのは?」
「白洋宮が相当危険だそうです。応援に出ている者がいますが、やはり指揮連携が無いようで」
「分かった。双子宮、金牛宮の塔を回って白洋宮へ向かう」
 全員が素直に頷く。実際に先頭に立つことは少ないが、それでもやはり学生運動をする者達の間ではアスカの人気は高い。そしてなにより、才能がある。

 走り出してすぐ、横合いの路地から何人かの騎士が走り出して来るのに出くわした。鎧の色は青ではなく、おそらく公爵騎士団。
 双方共に驚いたが、すぐに戦闘体勢に移行する。
 アスカが構成を展開するのを見て取ると、学院生が援護の為に散開する。
「サンダー!」
 最小威力の電撃。肌の露出している所をしっかり狙い一人を気絶させると、アスカは次の騎士に向き合う。
 相対した残りの二人の騎士が一人を囮にして援軍を呼ぶために声を挙げようとする所を、他の学院生達のサンダーの魔法の集中打で気絶させた。
「気絶させて、どうするの?」
 サリナの言いたい事は、この騎士達の処遇である。捕虜として扱わなければいけないだろうし、なによりこのまま放っておく訳にもいかない。
「魔道師同盟に引き渡すべきなんだろうな。誰か、行ってくれるか?」
 アスカの声に反応して、何人か手が挙がった。その中から、私学生を中心に5人を選び出す。
「まあ、しばらくは目は覚めないと思うけど、気をつけて。自分の命を最優先に」
 頷く私学生を後に、双子宮の塔を目指してアスカ達は移動を開始した。


 双子宮、金牛宮の塔で仲間を集め、白洋宮の塔に行く途中で、アスカ達はその報告を聞いた。
 伝えたのは先回りしていた学生の一人。
「白洋宮が陥落。事実だな?」
 アスカが強張った声で確認する。
 辛そうに頷くその学生を見て、集まった学生達の間に動揺が広がる。
 サリナにクライン、双子宮で合流したシリア、レイニーといった面々も、不安な表情をアスカに向ける。
 このまま進むか、一旦撤退か。
 一瞬悩んだアスカの耳に、最悪の声が聞こえてきた。
「敵部隊発見! 学生のようです」
「第442戦闘小隊、対魔道師戦注意!」
「486を下がらせろ! 伝令!」
 視界に映る青い鎧。すぐにアスカは叫んでいた。
「散開しろ! 離脱できる者から戦場を離脱!」
 何人か、魔法で応戦する者もいたが、相手は魔道師との戦い方も訓練している正規軍の騎士である。さっきはあっさり倒せたのも、こういう形で相対すれば、所詮は素人の学生には敵うはずはなかった。盾を使い、身をかわして迫って来る。
「ダメだ、戦うな! 離脱できる者から離脱しろ!」
 アスカは叫ぶが、混戦の様子を見せ始めてた。同士討ちの危険が大きいため、もう魔法は使えない。
 一人の騎士が、学生のリーダーと見たアスカに襲いかかってくる。
 身を捻ってかわし、長剣を抜く。一応上級魔道師として剣技は修めてはいるものの、真正面からの剣技で敵うとも思えない。
 打ちかかってきた相手の剣を受け止めると、横合いからクラインが短剣で援護してきた。右腕の鎧の隙間に的確に突き刺し、続いてサリナが左足を刺して戦闘不能にする。
「すまん」
 アスカが謝ると、クラインは笑って返す。
「いいって。それより脱出だ。このままじゃまずい」
「ああ」
「こっちよ、急いで!」
 シリアが退路を開いている。レイニー、ディラックなども、アスカを離脱させる事を優先させているようだ。
「無理するな、まだやることがあるんだからな」
 また騎士が一人襲いかかって来る。
 何合か打ち合った所で、アスカが左手を騎士に向ける。魔法による攻撃だと思い、とっさに盾を掲げた騎士のその隙を使い、死角に回り込むと、今度こそサンダーの魔法を放つ。
 ビクっと体を震わせて昏倒する騎士を尻目に、アスカはサリナ達を従えて、急いで戦場を脱け出した。

第4話−4


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