子供だって恋をする


「おはよう、ウォルターくん」
 ウォルターが振り向くと、そこには友達のミリルがいた。
「あ、おはよう、ミリルちゃん」
「いまから学校でしょ。一緒にいこうよ」
「うん。いいよ」
 2人は肩を並べて歩き出した。

 ウォルター・フィートは、来年成人を控えた6才の学生だ。
 そしてミリル・ポーは彼の同級生。
 今日は1年間の授業の最後の日。つまり、ウォルター達の最後の授業だ。


 授業の終わりの鐘がなる。
「これで2時間目の授業を終わります。礼!」
『ありがとうございましたー』
 学生たちはお昼のお弁当を外で食べようと、こぞって学舎を飛び出していく。
 ウォルターもどこで食べようかなと思案しながら、外に出た。
「お〜い」
 向こうでクラウディオが手を振っていた。
「一緒に食べようぜ〜」
「いいよ〜」
 ウォルターも手を振って答える。
 クラウディオの元に行くと、他に4人いた。
 スベントレナと、従兄のローズベルト。年下のデルタ。そしてミリル。
 みんなでお弁当を広げ、昼食となった。

「でも、ウォルターは主席だろ。知識のメダル貰えるの決まってるし」
「ウォルターくん、頑張ってるもんね」
 クラウディオとスベントレナが言ってきた。
 話題は成人式のことだ。
「みんな来年成人しちゃうんだよね。私まだずっと先のことなのに」
 かなり年下のデルタが寂しそうに言う。
「デルタちゃんは来年入学なんでしょ?」
 ミリルが慰めようとしている。
「うん」
「入学したらお友達たくさん出来るわよ。だから大丈夫よ」
 またクラウディオが口を挟む。
「でも来年入学する子って少ないんじゃなかったか?」
「たんに僕らの学年が多すぎるんだよ」
 ウォルターが言うと、スベントレナも同意する。
「そうそう。9人なんて多すぎよ」
 デルタが意気消沈している。

 話題が成人後のショルグとウルグの話になった。
「俺はミダにするよ。ウルグはどうしようかなぁ」
 クラウディオが言う。
「あたしもジマショルグがいいな。ガアチウルグもいいし」
 スベントレナが応える。
「僕、父さんがナァムなんでミダだけなんだってさ。ウルグはリムがいいんだけどね」
 ローズベルト。次にミリルが言う。
「私はミダ。ガアチウルグも楽しそう」
「僕はジマとバハにするよ」
 最後にウォルター。
「みんなばらばらだね」
「コークショルグがいないね」
 みんなで談笑していると、学舎の鐘が鳴った。3時間目の授業が始まる合図だ。
「うわわっ。遅刻だよ」
 クラウディオが大慌てで言う。
 全員急いで学舎に入っていった。


「今日で3年生の人達は授業が終わりです。寂しいですね。
 でもこれから大人になっても、ここで勉強したことを忘れずに、立派な人になってください。
 明日は社会見学の日です。
 朝の2刻にリムウルグに集まりましょう。
 では、礼!」
『先生、さようならー』
 4時間目の授業が終わった。
 生徒達はそれぞれ学舎を出ていく。
 そのまま帰る子もいれば、遊びに行く子もいる。
 ウォルターも、家に帰ろうと足を向けたが、呼びとめられた。
「おーい。ウォルターくーん」
 声の主はミリルだった。
「ねえ。ちょっとお散歩行こうよ」
「え、うん。いいよ。どこ行くの?」
「ワクト神殿に行きましょう」

 荘厳華麗なワクト神殿。
 今は2人以外に人はいない。
 ウォルターは静かに、祭壇に祭られているクリスタルを眺めている。
「綺麗なクリスタルね……」
 ミリルがそう言いながら、ウォルターの側に来る。
「将来、ここで結婚式を挙げるのよね」
「うん。ミリルちゃんと結婚する人はどんな人だろうね」
 ウォルターが、クリスタルを見つめたまま言う。
「えっとね……」
 ミリルは答えるのを躊躇っている。
 しばしの沈黙の後、
「私と結婚する人は、もう決めてるから」
 彼女が恥ずかしそうに言う。
「へえ……。誰だか知りたいな。ミリルちゃんの好きな人」
 さらに深い沈黙があたりを包む。
 ミリルは勇気を絞って、言葉に。そして行動にでる。

 ウォルターは相変わらずクリスタルを見たままだ。だがミリルには、ウォルターがこちらを向かない理由は知っていた。
 ミリルから見えるウォルターの横顔は、ちょっぴり赤くなっている。今の言葉も少し震えていた。そのことがミリルの心に、ある自信をつけた。
 彼女の心臓が、早鐘のように鳴り響いていた。理由は言わずとも知れている。言わなければならない。自分の正直な気持ちを。なぜならば、彼女は……。

 ウォルターはミリルのことが直視できなかった。 
 彼は緊張しているのだ。口では平静を装ってみたが、心臓の鼓動は限りなく早くなっている。
 ミリルの言葉から、彼女の心はわかっている。
 言わなければならない。自分の正直な気持ちを。なぜならば、彼は……。

「ねえ、ウォルターくん」
 その言葉にウォルターはミリルの方を向く。
 ミリルは手を伸ばし、ウォルターの首に絡みつかせてきた。彼の視界いっぱいに、ミリルの顔がある。
 彼女はそのまま小さく背伸びをして、ウォルターに軽くキスをする。
 ちょっと大人びた行動だが、これが1番気持ちを表現できると思ったのだ。
「私じゃ、だめ?」
 小さな声が聞こえる。
 だめなわけがない。ウォルターの心は決まっている。
 ウォルターは返事の代わりに、ミリルのことをそっと抱きしめた。
「いますぐはちょっと無理だけど、成人したら、必ず……」
 ウォルターの言葉を聞いたミリルは、満面の笑顔で頷く。
「嬉しい……。ウォルターくん、ありがとう」
 2人はもう一度、今度は恋人同士のキスをした。

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