| グレン・ハミルトンが死去したのは、共和国暦573年の事だった。 コーク杯2回優勝、さらにバハウルグ長として、国民の模範となった彼だった。 葬儀にはたくさんの人々が訪れた。全国民が集まったのではないかというほどに。 「あれ? クリュセイス、まだ起きてたの?」 グレンの葬儀のあった日の夜、彼の2人目の妻の家に、娘のカララが来た。 彼の葬儀、その後の引越し等、気の休まる時のなかったクリュセイスを心配して、である。 「うん、ちょっとね。眠れなくて……」 クリュセイスは、居間で、ロン酒を飲んでいた。 普段は彼女は飲まないが、夫を亡くした気を紛らわすためだろう。 カララはそっと、クリュセイスの向い側に座った。 「グレン……。ちゃんとワクトの元へ行けたかしらね……」 「行ってるわ……。きっとね」 クリュセイスの呟きに、カララはそっと答えた。そのまま続ける。 「ワクトの元で、先に逝った兄さんや姉さんに会ってるのよ」 カララは、父の影が忘れられずにいた。 いくら年だと分かっていても、まだ事実を受け入れたくない。 クリュセイスも同じだった。 10才も年の離れた自分を愛してくれた夫の事を。 思う度に、涙が溢れてくる。 夜の静寂が、2人を包んでいる。 たった1人欠けただけで、こうも違うものなのか。 その静寂に耐えられず、カララは話をきりだした。 「あーあ。こんなに辛気臭くなってちゃ、お父さん安心できないわ。明るくいきましょ」 ちょっと面食らった様子のクリュセイスを無視して、カララは続ける。 「ねえ、何でお父さんと結婚したの?」 「え? えーっと……」 突然の問に、ちょっと考えているクリュセイス。 「自分でもよく分からないの。でも、10才以上年の離れている私でも愛してくれたから、かな」 「そうなんだ……」 「カララも、始めびっくりしたでしょ。同級生が母親になるなんて」 「うん。でもね、お父さんが幸せそうにしてるの見て、これでいいんだって思ったの」 カララが遠い目をしながら続けていく。 「お母さんが死んじゃった日から、お父さん、ふさぎ込んじゃう様になって。 お父さん、移住者だったから、頼れる人がいなくなっちゃったの。 仕事も訓練も身が入らず。上の空って感じ。 で、そんな時にクリュセイスと出会ったってワケ。 クリュセイスとデートしてる時のお父さんの笑顔、お母さんが死んでからは1度も見てなかったわ」 その言葉を聞いたクリュセイス。酒も手伝ったのか、真っ赤になっていた。 「私とのデート、そんなに嬉しかったんだ……」 「周りの人も、年が離れ過ぎだとか言ってたけど、お父さん、全然気にしてなかったもの」 最初こそ、反対された交際。だが、それを意に介さずに付き合いつづけた2人。 「クリュセイスと付き合い出してから、また仕事とかも張りきってて。 やっと本当のお父さんに戻ったんだって思えたの。 再婚する時も、お父さんの幸せそうな姿を見てたら、反対なんて出来なかったわ」 その後も、2人の昔話は続いた。 父の思い出、2人の子供の頃の思い出……。 日付も変わる頃となり、カララは家に帰ることになった。 「ごめんなさいね、カララもお父さん亡くしたショックがあるのに付き合わせちゃって」 玄関で、クリュセイスが謝辞をする。 「いいのよ。気にすること無いって。2人でいるほうが、1人よりも悲しみは薄れるでしょ。 悲しいのはお母さん1人だけじゃ無いのよ」 「そう言ってもらえると気が楽になるわ。 それに、あなたにお母さんって呼んでもらうの、初めてね」 クリュセイスが微笑んだ。カララも一緒になって微笑を浮かべる。 「そうだっけ? じゃ、もう1回。 おやすみ、お母さん」 「おやすみ、カララ」 |