成人式


「見てみて。かわいいでしょ〜」
 支給されたばかりのコークショルグの上着も誇らしく、ガリソンは嬉しそうに言った。
「ほ〜。なかなかじゃないか」
 ミダショルグ員の証である緑の上着を着たロルカが返す。
「これが着られると、大人って感じだよな」
 紫、ジマショルグの上着を着たフィリッポも自慢そうだ。
「そうね。頑張らなくっちゃ」
 同じくジマショルグ、スベントレナも言う。
「明日は新年祭と仕事始めだろ? なんか緊張してきた……」
 そんなフィリッポを見て、ロルカが苦笑しながらからかう。
「フィリッポ早過ぎだって。さっき成人式でガチガチになってたのにもうかよ」
「あはは。そうね」
 ガリソンが笑い出す。スベントレナもぷっと吹き出した。
「う、うるさいな。ロルカだって顔引きつってたくせに」
「あ、ひどいな。宣誓のとき間違ってたくせに」
「まあまあ。2人とも面白い顔してたのはホントだから」
 横から変ななだめ方をするスベントレナ。
 しばしの間、彼等の間で色々と楽しい話を続けると、ガリソンが締めるように言った。
「とりあえず今日のところは帰りましょ。また明日ね」
「おう。んじゃな」
「そうだね。また明日」

 みんながそれぞれ家路についたようだ。ロルカはこのまま家に帰るか、しばらくどこか見て回るかを考えていた。
「……さて、どうしようかな」
「ねえ、ロルカくん」
「え? あ、ガリソン、どうしたの?」
 振り返ると、帰ったはずのガリソンがいた。
「ん、ちょっとね。いつものトコ行かない?」
「へ? 別にいいけど」


 ワクト神殿の裏に広がるソギの森。そのなかにある小さな広場。2人は何度となく来たこの場所に、再びやって来ていた。
「わたし、ちゃんといいコークナァムになれるかな?」
「急にどうしたんだい?」
 不安そうな顔をしているガリソンを見て、そっと訊いてみるロルカ。
「分からない。でも、明日からナァムとしての仕事をしなきゃならないのが恐いのかな……」
「恐い?」
「上手く言えないけど。でも自信ないの。他のナァムの人みたいにしっかりやっていく自信が」
 ガリソンの言葉を聞いたロルカは少し間を置いて、ゆっくり言い出した。
「ぼくの叔父さんはジマナァムやってるし、お母さんの従妹がミダナァムやってるんだ。話を聞いたことがあるんだけど、2人とも最初はガリソンみたいにそう思ってたんだって」
 ガリソンは素直に聞いている。
「でも2人とも今じゃ立派にお仕事してるでしょ。ガリソンも心配することないって。まだお仕事始めてないから、不安なだけだよ」
「わたしと同じこと思ってたんだ……」
「慣れれば大丈夫だよ。習うより慣れろってよく言うじゃんか」
 昔から変わっていないロルカの不器用な慰め方に、ガリソンはちょっと笑ってしまう。
「そんなこと言ったっけ? でもなんだかロルカくんに言ってもらうと安心するね」
「そうなの?」
 意外なことを聞いた、とでも言うようなロルカの表情。
「うん。なんでだろうね」
 にこっと笑うガリソン。ロルカは彼女のその表情に照れ笑いを浮かべる。
「そうそう。わたし、コークナァムじゃない」
「うん。それが?」
「みんなと同じこの服、今日しか着れないんだな、と思って」
 ちなみにナァムは当人が生きている限り続くので、1度襲名してしまうと、一生を評議員として過ごさなければならない。
「あしたからずっと評議員服なのよね。似合うかな?」
「どうだろうね。でもガリソンなら良いと思うけど」
「ホント? じゃあ最初にわたしの晴れ姿見せてあげる。新年祭終わったら大通り南で待っててね♪」
 大通り南で待つことの意味を思い出し、ロルカは顔が真っ赤になった。ガリソンは気付く様子もなく、
「じゃあ明日ね」
 と、さっさと帰って行ってしまった。


「どう? 綺麗でしょ」
 ガリソンがその場でくるりと1回転。昨日のミニスカートとは違うロングスカートがさらりと衣擦れの音を立てる。
「うん、やっぱりこうして見ると綺麗だよね」
「えへへ。綺麗って言ってもらえると嬉しいな」
 にこにこと笑顔のガリソン。ロルカは大通り南という場所柄、内心どきどきしている。
「ええっと、これからどうするの?」
 動揺をなんとか隠して、辺り障りのないことを訊くロルカ。
「今からちょっと評議会に行くの。カオルさんにいろいろ教えてもらわなきゃならないから」
「そうなんだ」
「うん。ちょっとしか話せなかったけど、またね」
「ああ」
 軽く手を振りながらガリソンは行ってしまった。
 大通り南の意味を、少し期待していたためか、ちょっとがっかりしたロルカだった。

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